10才を機に引退。家庭犬として余生を過ごす
ユーザーの元で過ごした盲導犬にも、引退のときがやってきます。
「盲導犬の引退は、約10才。人間でいうとちょうど定年ぐらいの年齢です。まだまだ元気な時期ですが、引退後の新たな生活に向けて、まだ余力のある年齢で引退し、次の犬を迎えられるようにしています。引退後は、ボランティアの家庭で、愛情に包まれながらのんびり暮らします。重篤な疾患がある場合は、設備が整う富士ハーネスで職員のケアのもと余生を過ごします」
こうして見ると、盲導犬の“犬生”には、誕生から最期のときまで、どの場面を切り取ってもさまざまな人が関わっていることがわかります。盲導犬は、ユーザーやボランティアの家族、訓練士、訓練センターのスタッフなど、たくさんの人の愛情に触れながら生きているのです。
まだまだ誤解の多い盲導犬の現実
盲導犬の一生を知ると、目の見えない人や見えにくい人のためだけに生きるのではなく、たくさんの人から愛情を注がれる姿や楽しく遊ぶ姿など、さまざまな側面が目に浮かんできました。
「盲導犬は“ずっと働かされて大変だね”などと誤解をされやすいのですが、24時間盲導犬として過ごしているわけではありません。盲導犬が仕事をするのは外を歩くとき。家の中ではハーネスや首輪を外し、家庭犬と同じように暮らしています。家の中のことをいちばんわかっているのは人間なので、盲導犬が家の中でユーザーを案内することはありません」
日本盲導犬協会が毎年行っているユーザーへの聞き取り調査結果によると、盲導犬として歩行する時間は1日平均2時間ほど。これ以外の時間は、ユーザーの仕事先で過ごしたりお気に入りのマットで寝たり、ユーザーの家族とボール遊びをしたり、家庭犬と同じように過ごしています。
「厳しい訓練をしているのではないか」という声もあるそうですが、1回の訓練時間は30分〜1時間ほど。午前と午後の訓練を合わせても、訓練時間は長くて2時間だといいます。パピーウォーカーの家庭から訓練センターに戻ったばかりのころはほんの数分で、犬の集中力を見ながら、徐々に時間を延ばしていくのだそうです。
「共生」するユーザーと盲導犬の絆の深さ
盲導犬の犬生のなかで、最も長く一緒に過ごすのは盲導犬ユーザーです。盲導犬と人との絆はとても深いといいます。
「ユーザーができない部分を盲導犬が補い、その代わりにユーザーは盲導犬の幸せと健康を守ります。決して犬だけが人間に与えているのではなく、人間も犬に幸せを与えているんです。まさに共生ですね。あるユーザーの方からは、盲導犬と一緒に歩くことで、ちょっと失敗しても笑って過ごすことができるようになったと聞きました。また、ひとりで歩いているときはなかなか声をかけてもらえなかったのが、盲導犬といると声をかけてもらえるようになったという方もいらっしゃいます。盲導犬をきっかけに、周囲に人がいる環境ができ、安心感も得られるのかもしれません」
盲導犬がいれば、今まで行けなかった場所にでかけられるようになり、行動範囲も広がります。池田さんはユーザーの笑顔を見るたびに、「この仕事をやっていてよかった」と感じるといいます。
「これからも視覚障害者に正しい情報を届けていきたいと思っています。日本盲導犬協会は、盲導犬の訓練を行う訓練部以外にも、視覚障害者の生活などをサポートする部署などがあり、目の見えない方や見えにくい方をさまざまな形で支えています。盲導犬に対する理解は少しずつ進む一方で、盲導犬の入店拒否はまだ起こっています。盲導犬に対する世の中の誤ったイメージが変わるよう、今後も頑張っていきたいです」
(取材・文/鈴木ゆう子)
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