hydeへの憧れから苦手な蕎麦を克服
──hydeさんへの憧れから蕎麦に興味を持つようになったそうですが、もともと蕎麦はお好きだったのですか。
「実は……嫌いだったんです。まったく食べられないくらい大嫌いでした。hydeさんが好きだと言わなかったら、今も食べていないかも」
──まったく食べられないくらい嫌いだったとは、これもまた意外ですね。
「食べ物の好き嫌いはほとんどなくて、けっこう何でも食べられるんです。けれども、唯一の例外がお蕎麦でした。特に香りが苦手で、お蕎麦屋さんの前を通ると気分が悪くなるくらい。でも、“尊敬するhydeさんのためにも苦手意識を克服しなきゃ”と思ってチャレンジするようになったんです」
──どのようにして壁を乗り越えたのですか。
「初めは家で乾麺をゆでて食べるところから挑戦しました。“う! 気持ち悪い”と口を押さえながら食べましたね。そうして次第に食べられるようになりましたが、おいしいと感じたのは、ずいぶん後なんです」
──蕎麦をおいしいと感じるようになったのは、いつですか。
「2014年です。チェーン店の富士そばさんに紅しょうがの天ぷらがのったお蕎麦があって、おそるおそる食べたら、意外とおいしかった。それで“食べたよ”ってTwitterに写真をアップしたら、けっこう『いいね!』がついたんです。そこから“お蕎麦をもっと研究したい”という気持ちになりました」
──2014年と、はっきり覚えているんですね。
「そうなんです。2014年は忘れられない年で、つらい時期だったんですよ。そのころ、私は5人組のアイドルユニットの一員だったんです」
──ゆさそばさんにはアイドルだった時期があるのですか。
「“幻奏戦士そらみれど”という5人組のユニットで、“ゆさ”という名前でアイドルをやっていました。全員が弦楽器を弾く音大出身のアイドルというコンセプトがあって、応募したら受かったんです。2012年から2年ほど活動しました」
──ということは2014年にアイドル活動を終えたんですね。
「はい。それまでニコ生をやったり、レギュラー番組もあったり、けっこう期待されていたんです。けれどもメジャーデビューのためにCDを作ろうかって矢先にメンバーが辞めちゃって、解散しました。“今後どうやって生きていこうか”と悩んでいた時期でしたね。そんなころに“お蕎麦を食べたよ”と投稿したら、ファンの方々から“バイオリニストでも立ち食いそばを食べるんだね”とたくさんの反応が返ってきて、手ごたえを感じたんです」
──まるで苦手だった蕎麦が、ゆさそばさんの味方をしてくれているようですね。
「そうなんです。それ以来、お蕎麦を食べ歩くようになりました。 “オソバイオリニスト”というワードも思いつきまして。2015年にシングルCD『そばにいて』を制作し、それがゆさそばのデビューとなりました」
──食べ歩きをして、蕎麦に対する考え方は変わりましたか。
「手打ち蕎麦のおいしさに開眼しました。足利にある『山』という名のお店で食べたお蕎麦に衝撃を受けたんです。“玄そば”という、蕎麦の実の黒い殻をそのまま残した麺で有名なお店なんですが、素のえぐみ、苦味をダイレクトに感じられて、“すごい。こんな香ばしいお蕎麦あるんだ”って驚いたんです。それから手打ち蕎麦にハマりました」
──以前はにおいも嗅げないほど蕎麦が嫌いだったのに、大逆転ですね。
「本当にそうですね。蕎麦って知れば知るほど奥が深いです。お蕎麦屋さんだけではなく生産者さんの畑へ行って収穫のお手伝いをしたり、製粉所を見学したりもするようになりました。その工程を辿(たど)るうちに、食べ物に対する感謝の気持ちが強くなりました。ありがたみをひしひしと感じますね。お蕎麦から学んだことは本当に多いです」