「ちぇっ、こんな仕事、誰にでも、できるじゃん」
自分に自信があって、意識が高い人ほど、会社で雑用をやるように言われたとき、こんなふうに思ってしまうのではないでしょうか?
これは、そんな「雑用」を、「自分にしかできない仕事」に変えるにはどうしたらよいか? という話です。
ある日「女子マネージャーが作った弁当を用意しろ」と言われたら
テレビプロデューサーで演出家、そして、当時会社員でありながら(現在は退職し、フリーに)ラジオパーソナリティもやっていた佐久間宣行(さくまのぶゆき)さんが、テレビ東京に入社して1年目、まだ下っ端のAD(アシスタント・ディレクター)だったころの話。
当時の佐久間さんは、新人ADの仕事に対して“つまらないうえに激務”で、“誰にでもできる仕事”ばかりだと思っていたそうです。
そんなある日のこと、ドラマの監督からこんな指示が……。
「明日の撮影で、サッカー部の女子マネージャーの手作り弁当を小道具として使うから、用意してこい」
聞けば、その弁当は実際の撮影では画面に映るか映らないか程度の扱いで、ストーリーにはまったく関係のない小道具とのこと。例によってテンションの上がらない“誰にでもできる仕事”です。正直、監督の命令口調にもイラッとしました。
とはいえ、監督の指示は絶対ですから、それらしい弁当を用意しなくてはなりません。
佐久間さんは学生時代にアルバイトをしていた居酒屋に頼み込んで厨房を借り、ADの仕事が終わった夜中から弁当を作り始めます。
いくつか作ってみましたが、どうもウソっぽい。
“なんか違うんだよな……”と途方に暮れてしまいました。
と、突然、ひとつのアイデアがひらめきます。
“そうだ、サッカー部のマネージャーなんだから、おにぎりをサッカーボールに見立ててみたらどうだろう?”
さっそく海苔を六角形に切り抜いて、丸いおにぎりに貼りつけてみます。
“うん、イイ感じかも”
ここまでやると、おかずのほうも女子高生らしくしたくなり、ウインナーはタコさんに、玉子焼きもキレイなものにとこだわりました。
そんなことをやっているうちに、気がつけば朝の5時。3時間後には、ロケが始まる時間に!
画面に映るかどうかわからないような小道具の弁当なんて、そのへんのコンビニで買った弁当に入っているおかずを適当に詰めれば、あっという間にできるのに、いったい自分は何をやっているのか……。
そんなことを考えながら、佐久間さんは完成した弁当を持ってロケ場所に直行し、監督に弁当を見せました。
すると、弁当を見た監督が、耳を疑うことを言ったのです。
「ちょっと台本を変えよう。この弁当をストーリーのメインにしたい」
この言葉を聞いた瞬間、佐久間さんの中で何かが変わりました。
“そうか、誰にでもできると思っていたつまらない仕事も、考えて工夫すれば、自分だけの「佐久間の仕事」に変わるんだ! これが仕事の楽しさなんだ!”
そう考えるようになったこの日から、あんなに面白くなかった現場が楽しくなったのだそうです。