松本若菜の明るいオーラに助けられた
主演映画『マリッジカウンセラー』は2022年9月より愛知県で先行ロードショー。2023年1月より東京でのロードショーが始まった。
最初に書いたように、いっけいが「とよかわ広報大使」を務めている関係もあって、豊川市を中心に愛知県内でロケーション。撮影にあたっては、地元の各団体・関係者が全面的なバックアップ体制を敷いてくれたという。
「やっぱり愛知県出身だし、いつか豊川でそういう仕事ができたらいいなと思っていました。ただ、コロナ禍の中で撮影だったので、あまり “故郷に錦を飾る” っていう雰囲気もなく。申し訳ないんですが、“見学もご遠慮ください” っていう。
友達もいるので飲み会とか誘われたんですけど、ぜんぶ断って “水くせえなお前” っていう感じで、もう特殊な “故郷に錦” になりました。逆に言うと、本当に作品のことだけを考えて濃密な3週間近くを過ごしたので、いいものになってる気がします」
映画は不動産会社の営業マン・赤羽昭雄(渡辺いっけい)が会社のブライダル部門進出にともない、結婚相談所を切り盛りする結衣(松本若菜)のもとへ出向し、心ならずも仲人としての研修に励むという物語。
最初はセクハラ・パワハラ気質まる出しだった “昭和のオヤジ” が、結衣の母親でカリスマ仲人の十和子(宮崎美子)など周囲からの気遣いに気づき、「結婚したい男女」のために全身全霊をかけて奮闘していく展開に──。
「僕が演じる主人公は、まあ信じられないぐらい空気の読めない人物。それが徐々に変わっていくっていうストーリーなのでいいんですけど、あまりにも強烈なので、撮影中は “お客さんがついてこないんじゃないか” って、すごく心配になりました。でも、できあがってみたら、“いるいる、こういう人” って反応が多くて(笑)。
そういえば『ひらり』(※) の時も最初は嫌われる役なんですよ。登場して1週間ぐらいは下町のみんなの悪口ばっかり言っている。それが町医者としてスキンシップがとれるようになって交流を深めていくっていう役だったんですね。当時、“これで大丈夫なんだろうか!?” と心配になったことを思い出しました」
※石田ひかり主演のNHK連続テレビ小説。両国診療所の医師・安藤竜太を演じてお茶の間の人気者になった。『ひらり』については、近日公開のインタビュー【後編】で詳しくご紹介します。
共演の松本若菜とは、ともに映画『母 小林多喜二の母の物語』(2017年公開)に出演しているが、一緒に芝居をしたのは初めてだという。
「松本若菜ちゃんは非常に明るくて助かりましたね。僕自身はもともとの根っこの部分が陰鬱な影のあるキャラクターだと思ってるんで。彼女は演者としてすごく明るいオーラが出る女優さん。バディとしてはすごくバランスがいいんですよね」
「 “遅咲き”の女優さんとも言われていますが、この『マリッジカウンセラー』を撮影しているとき(2021年10月)くらいから、テレビの連ドラの仕事も増えてどんどん忙しくなっていった。それでも今みたいにわーっていう感じじゃない、直前の段階だったと思います」
撮影チームが宿泊していたホテルの目の前に豊川市民体育館があり、そこの施設では一緒にトレーニングをしたという。
「300円ちょっと出すと利用できるっていうんで、時間が空くと僕は行ってたんです。若菜ちゃんもそれ聞きつけて、“私も行きたいです” って来たことがあって。あんな美人が来たりすると “おいおい”ってなるんで。ま、マスクをして顔は半分隠れてますけど、明らかにスタイルいいし。ちょっと心配になっちゃったけど、平気で汗かいてました。
いま同じように若菜ちゃんがジムに行ったら、大変なことになると思いますね」
撮影とトレーニングジムを除いてはほとんど外出せず、外食もしなかった。実家にも帰らなかったというが、1日だけ時間が空いたので、先祖代々の墓参りに行ったときのこと──。
「お花とお線香をあげて挨拶だけして戻ろうと思ったら、実家が見えるわけですよ。なんだかご先祖さまが “お前、寄ってけよ” って言ってるような気がして、ちょっと玄関先だけのぞこうかなって。いまも親父とおふくろが2人で住んでるんですけど、ホテルで借りた自転車をこぎながら見に行ったら、もう90歳近い親父が脚立に乗って、玄関先の屋根の上のゴミを取ろうとしてたんですよ。明らかにフラフラしていて、本当に冷や冷やしました。
驚かせないようにゆっくりと声をかけて降ろして僕が代わりにその作業をやったんですけど、もしあのとき寄っていなかったら、危なかったなぁって。すぐ近くに嫁いだ姉が知って “脚立禁止なのに!”って本当に怒っていました。まあ、親父の気持ちもわかるんですけどね」
虫の知らせか、ご先祖さまのご加護か……絶妙のフィーリングとタイミング! 出会いと縁を味方につけて、渡辺いっけいの俳優人生はさらに続いていく。
※インタビューの続きでは石田ゆり子・ひかり姉妹との共演エピソード(『ひらり』『不機嫌な果実』)などをお届けします。
(取材・文/川合文哉)
【作品情報】
映画『マリッジカウンセラー』
出演/渡辺いっけい 松本若菜 宮崎美子
監督/前田直樹 脚本/松井香奈
池袋シネマ・ロサ、kino cinema横浜みなとみらいにて公開中。
1月27日〜千葉劇場、2月4日〜大阪・第七藝術劇場ほか全国順次ロードショー
NEWS!
2023年1月14〜22日にバングラデシュで開催された「第21回ダッカ国際映画祭アジア映画コンペティション部門」にて、渡辺いっけいが「ベストアクター賞(最優秀俳優賞)」を受賞。
●渡辺いっけいコメント
「異国の映画祭での受賞は何だか他人事のような不思議な気持ちですが、現地に出向いた前田監督はきっと僕以上に喜んでいる事でしょう。少しでも多くの方にこの映画が届きますように」
《PROFILE》
渡辺いっけい(わたなべ・いっけい) 1962年10月27日、愛知県生まれ。大阪芸術大学卒。「劇団☆新感線」「状況劇場」を経て、1992年NHK連続テレビ小説『ひらり』で注目を集め、舞台、ドラマ、映画、バラエティーなどで幅広く活躍。主演映画『マリッジカウンセラー』が公開中。映画『シャイロックの子供たち』が2月17日、『Winny』が3月10日公開。深夜ドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(テレビ東京系)が放送中。アニメ『おしりたんてい』(NHK Eテレ)のナレーション・マルチーズ署長役など声の仕事も多い。