君の名前で僕を呼んで、僕の名前で君を呼ぶ

エリオ(左)とオリヴァー(右) (c)Frenesy, La Cinefacture

 エリオとオリヴァーのつながりは、中盤で見せる夜中のラブシーンや別れの抱擁など、身体的な部分が際立つゆえに、よりいっそう本質は精神的な部分にあることが強調されている。題名の由来にもなり、2人がベッドに横たわりながら交わす「君の名前で僕を呼んで、僕の名前で君を呼ぶ」という台詞は、それを最も具体的に表現している言葉である。他者の存在を自分自身に置き換えて呼ぶことで、身体という“絶対的な他者との別離”を生まれながらに備えている人間には、本来不可能であるはずの”身体的な超越”を行っているのである。

 惹かれ合う速度と刹那的な季節が重なり、プールの水面に晒(さら)された皮膚や鼓動を打つ心臓をも乗り越えて、その先へと向かおうとする。それはひとりの人間として、誰かを愛するという行為の臨界点であり、彼らはあの夏に運命のつがいである”君”であり”僕”と出会ったのだ。

 そんな究極の愛の形を描いた本作は、「器(身体)がどんな形をしていても、互いを深く愛することができれば、その愛は羽化のごとくメタモルフォーゼを遂げ、生涯に刻みつけられる」ということ、そして「愛とは平等に痛みや喪失を人にもたらし、それこそが人を人たらしめる」ということを深く考えさせてくれる。

 声、視線、匂い、手ざわり、味わい。五感を開いてすべてを受容し、慈しみ、そこにあるがままの自然とともに寄り添ったふたりのことを、私は忘れることができない。今、公開から5年の月日がたっても変わらず感じるのは、本作が奇跡のような愛の痛みと歓びに満ちた作品であり、季節や時間を飛び越えて人々の心を震わせる芸術のひとつであるということだ。

 これからも私は、ふたりが出会った夏日の眩(まぶ)しさを反芻(はんすう)し、こぼれ落ちていく宝石のような本作の煌(きら)めきを愛していくだろう。

(文/安藤エヌ、編集/FM中西)

『君の名前で僕を呼んで』の朗読劇が、'23年1月27日~29日に開催中
『君の名前で僕を呼んで~5th anniversary~』朗読劇・トークショーイベント

第1部の朗読劇では、醍醐虎汰朗がエリオ、阿部顕嵐がオリヴァーを演じる。脚本・演出は『私の頭の中の消しゴム』などで知られる朗読劇の名手・岡本貴也。音楽監督は映像や舞台・TVアニメなどの劇中音楽を手がけた土屋雄作が務め、永田ジョージ(ピアノ)、眞鍋香我(ギター)とともに劇世界を彩る。醍醐と阿部は、第2部の「映画スペシャルトーク」にも登壇。司会に映画ライターのよしひろまさみちを迎える。

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