人間が恋愛をするのはきっと、「自分のことを知るため」
春美「ただ、このままひとりで生きていけるか、ちょっと不安だし。よさげな人に出会っても、ビジュアルが好みじゃないことも多いんです」
二村「どうしたらいいんだろうね(笑)。春美さん、“安全な男はビジュアルがダメ”っていう信念を持ってしまっている可能性もありますか?」
春美「そうかもしれないです。実は私、誰かと恋愛したりつきあったりしているときの自分のこと、あまり好きじゃないんです。彼氏っぽい人がいないときの自分はカラッとしてるのに、そうじゃなくなるから……。だから恋愛してると“本来の自分に戻りたい”っていつも思うんです。そう考えると、誰にも心を縛られていない今が、いちばんコンディションがいいんですよ(笑)」
二村「その状態でいるためには、恋愛に多くを求めるのをやめて、ウエットな関係にはならないような男とさっさと結婚をしちゃうべきなのかな。性的に興奮はしないけれど、“いい奴だな”って思える友人で、結婚できそうな人っていませんか?」
春美「それって、結婚っていうよりパートナーですよね。でも、つまらない人と一緒にいるよりもダメな面白いクズと恋愛して、それを飲みながら友人との笑い話にしたい気持ちもあるんです」
二村「お友達に失敗を報告して、ウケたいわけですよね。じゃあやっぱりそのままでいいんじゃないですか。みんなを楽しませて生きていく」
春美「周りを元気にできるおばあちゃんになりたいなって思っているんですけれど(笑)。でも、34歳で20歳とつきあってフラれるって、見方によっては痛い話ですよね……」
二村「春美さんにとって大事だった12年前の元カレみたいなまじめな男、ほかにもいると思うんですよ。ただ、あなたが元カレを美化しすぎていて、もし彼と同じような男が近くにいても、つまらない男だって思っちゃっているのでは」
春美「なるほど……。ありえるかもしれません」
二村「恋愛が好きな女性はいつまでもドキドキを求めればいいのだけれど、春美さんは恋愛をしてると自分のパフォーマンスが落ちてつまらなくなるっていう自覚があるのは、すばらしいことですよね。しかし今回はもう人生相談っていうより、春美さんの面白い堂々巡りの話をただ聞いてる感じだよね(笑)。何か答えを求めているわけではないと思うから、俺がとやかく言うことはないんじゃないかな」
春美「私はどうしたらいいんですかね(笑)」
二村「みっともなくない自分、自分で嫌いじゃない自分のままで恋愛もしたいんだったら、さっき言ったように恋愛の初期に、お互いの大事な話をしたほうがいい。そうすれば相手がどういう人間なのかってある程度わかる。恋愛ごっこではできない話をしたほうがいいんですよ。でもなあ、みっともないのが恋だからなあ……」
春美「年下君が私にしてきたような、相手の弱みを聞いてあげるのだけではダメなんですか」
二村「それは対話じゃなくて“甘やかし”でしょ。あなたのほうも相手に弱みを見せられるようになれるといいかと。一方通行だとよくない。しかも年下君の場合は、きっとそれが彼の話芸みたいになっていたでしょ。モテる男は、そのときのリアルな心境を話しているんじゃなくて、そういう“自分の心の穴”の話をするとモテるって自分でもわかっているんです。春美さんもそれに乗りたくて乗っかっちゃったんでしょ」
春美「はい(笑)。自分だけに話してくれてると思っていました」
二村「いや、でもね、こういうふうに誰かの恋バナを聞いてると、やっぱり恋愛って面白いね。ちゃんと生身の人間に傷つけられて自分の考えてることが自分でわかるって、こんな面白いことなかなかないですよ。春美さんってウェットな自分に嫌悪感があるのに、エモさを求めてもいるんですよね。エモさってのは感情の揺れ動きのことです。だから最初からあなたを大事にしてくれる男だと物足りない。12年前の恋愛では“他の男が気になっている”って相手を刺激するような話を自分からしてしまった。でも過去の自分を振り返って、“あのときはそうせざるをえなかった”とも思ってる。
おせっかいな世の中からは、結婚できない女は幸せになれないって言われちゃうけど、大きなお世話でね。それを自分の信念にしちゃってる人も多いけど、独身は独身で楽しい人生ですよ」
春美「確かに、今の生活、仕事も友達にも恵まれてて不満はないし、楽しいんですよ」
二村「ただね、人間が恋愛を何のためにやっているかって考えたときに、自分のことを知るためにやっているんだと僕は思うんです。“恋愛ごっこ”をしたがっている相手だったら、男でも女でもいくらでもいる。でも自分と対話をしてくれる相手は希少だし、どこにいるのかわからない。意外と身近にいるかもしれない。まあ、“そういう恋愛もちょっとやってみようかな”とか思っていると、ふと出会えるもんですから。今回はなんか、あんまりお悩みに的確に答えられてなかったですが……」
──こちらも話を聞いていて楽しかったです。
二村「つらいときに話を聞いて笑ってくれる友人の存在は本当に大切だよね。春美さんが年下の彼を憎む気持ちがなくなったのも、お友達に話して、経験が物語化されてきたからでしょ。自分の話を否定せずお説教もせず過度な共感もせず聞いてくれる他人がいると、心も安定する。恨みを増幅させて被害者意識を持ち続けていても、いいことはないんですよ」
春美「支えてくれる友人たちに感謝して、これからも、お酒を飲みながら恋愛の失敗談をしていきたいと思います!」
*本日の二村格言*
「“あなたのことを好き”って言い合うのは、会話。でも対話っていうのは、お互いが話をして話を聞いてもらうことで、お互いが自然に変わっていくことです」
自分では気づけないことを言ってくれる二村さんの言葉。恋愛をすると、みんな自分を見失ってしまうのかもしれません。あなたも人にも言えないような悩みや不安を、そっと二村さんに話してみませんか?
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(取材・文/池守りぜね、監修/二村ヒトシ)
【PROFILE】
二村ヒトシ(にむら・ひとし) ◎1964年、六本木生まれ。慶應義塾幼稚舎卒、慶應義塾大学文学部中退。AV男優を経て、'97年からAV監督。現在では定番になっているエロの演出を数多く創案した。著書に『すべてはモテるためである』 『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(いずれもイースト・プレス)、共著に『オトコのカラダはキモチいい』(ダ・ヴィンチブックス)、『どうすれば愛しあえるの ──幸せな性愛のヒント──』(KKベストセラーズ)、『欲望会議』(角川ソフィア文庫)、『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)など。
本人Twitter→@nimurahitoshi