企画をつくる際に意識するのは「王道」と視聴者のパラダイムシフト

 フワちゃんと出会ったころ、長崎さんは放送作家としてブレイクスルーの時期を迎えていた。

 独り立ちして2年目までは、企画書を何百枚も書いても採用されず、お金にならないコント作家をするなど、厳しい時代が続いていた。しかし、3年が過ぎてようやく指名で依頼が来るようになり、テレビの企画書もするすると通るようになったという。

「嫌みな言い方に聞こえるかもしれないんですけど、ここ最近企画の採用率がぐんと上がった。自分の頭の中では、くそ意味不明な企画とかまったく成立していない企画を1000本ノック的にいろいろ考えていても、それは外には出さないですし、企画書に落とし込むときに自分で赤ペンを入れまくる。

“これ通らないでしょう”というものはハナから書きません。企画には“ハマる場所とハマらない場所、出すべきタイミング”があります。それがわかっているから、企画を無理に出すことはせず、出すべきときに出すからボツにならないんです。くそ意味不明な企画も、いつかタイミングでハマることもあるから、引き出しに忍ばせておく」

 今回、長崎さんが2019年に書いた、貴重なボツ企画書を見せてもらった。NHKの人気番組『着信御礼! ケータイ大喜利』のような大喜利番組の企画案で、芸能人の写真や動画をお題として公開し、それを視聴者が自由に画像加工してSNSに投稿してもらい、面白さを競い合うというものだ。

「タレントの写真をフリー素材化するというところなど、いろいろなハードルがあってできませんでした。この企画書は2枚で、企画書としてはかなり短いほう。基本的には10枚くらいあって、見せ方もコンテンツに合わせて変えています」

 長崎さんは著書で、企画をつくるとき常に「王道」を意識しているという。これは、すでにある王道を後追いするという意味ではない。

 世間一般の多くの人たちが「面白い!」と感じているエンターテインメントを意識しつつ、その王道から最も遠いところと思われていたものに着目して時間をかけ、徐々に王道をひっくり返し、価値観を転覆させていく。

 そこに放送作家としての醍醐味を感じているというのだ。

「フワちゃんのときもそうでしたが、原石と思えるものを見つけたとき、“こうやったらいいところまで持っていける”って、どれくらい想像力を働かせられるかだと思っています。面白さを感じて賭けるかどうかはその人次第だけど、常にアンテナを張っていないといけない仕事だなと思っています

ボツというよりも、タイミング的に難しくお蔵入りの企画書だそう。1枚目(上)、2枚目(下) 写真/本人提供

(取材・文/吉川明子、編集/本間美帆)


【PROFILE】

長崎周成(ながさき・しゅうせい) 1991年生まれ。放送作家。株式会社チャビーCEO。芸人、テレビ制作会社勤務を経て、現職。地上波テレビ番組の企画構成を担当しつつ、2018年にYouTubeチャンネル『フワちゃん TV』/『フワちゃん FLIX』をフワちゃんとともに開設。2019年に20代放送作家を中心とした企画会社チャビーを設立。お笑い・バラエティを中心に、『ZIP!』(日本テレビ系)『週刊さんまとマツコ』(TBS系)『ドラえもん』(テレビ朝日系)など、さまざまなメディアを横断して企画。Twitter→@shuuuuuusei