根強い人気、ボーナストラックで復活
もともとこのCDを企画していた東武ランドシステム(株)(現在の東武商事)は商社でありながら、クラシック音楽などのCDも制作・販売していた。そこで、そのノウハウを生かして東武鉄道に関連したCDを企画。その過程で「以前、池袋駅で使用していた発車メロディーは根強い人気がある」と制作関係者から声が上がったことから、『Passenger』がボーナストラックとして収録されるに至ったとのことだ。
クラシック基調の池袋駅の現メロディーのほかにも、東上線では川越駅や川越市駅でオリジナルの発車メロディーを採用している。各駅の採用曲を収録し、そこに長らく沿線の乗客に親しまれてきた『Passenger』も加わったというわけだ。東武鉄道の駅メロがCD化されるのも初めてのことである。
もっとも、すでにCD制作のノウハウがあるといっても、鉄道関連のCDは初めての試みだった。
「1曲が短いので2回以上繰り返すのがよいのか、それとも1回のみがよいか……など、音源をどういう形で収録するのがよいのか、勘どころがわからず苦労しました」
と東武商事の担当者は話す。商品化途中でのグループ再編による会社合併などの経緯もあり、2021年秋の企画決定から発売まで1年あまりを要した。
苦労のかいあって鉄道ファンと東上線を知るユーザーからの反響は大きく、
「大変多くの反響をいただき、驚いております。売れ行きも好調に推移しており、一時期は欠品となりご迷惑をおかけした時期もありましたが、現在は十分な在庫を確保しております。いただいたご要望などは、今後の商品開発の参考にさせていただきたいと思います」
とのことだ。
同じ東武鉄道でも浅草から北に向かう各線とは別に、池袋をターミナルにする東上線。違う文化を持つだけに、東上線単独でのCD化で、沿線の人々がこの路線と音にさらに愛着を持ってくれるだろう。
長年の東上線の利用者にとっては、『Passenger』は池袋駅の情景や電車を使う日常と分かちがたく結びついており、今回の収録につながった。 鉄道事業者オリジナルのメロディーでも、長く定着することで地域の名物になる可能性を示したこの出来事は「駅メロはどうあるべきか」を改めて考えるヒントも与えてくれている。
(取材・文/大宮高史)