危機感の中で、迷いもがきながら見つけた光

 見失いかけた自分を取り戻すために、家入さんが最初に取り組んだのは自分自身を徹底的に見つめ直すことでした。すると、自分に足りないもの、過分なことが少しずつわかってきたそうです。

 それからは忙しさに流されることなく、地に足の着いた丁寧な暮らしを心がけ、少しずつ“自分自身に返る”感覚になれたといいます。

「本当に恥ずかしい話ですが、それまで、自分で新幹線のチケットを買ったこともありませんでした。マネージャーさんから”明日は●●まで行き、■■に出演します”と、チケットを受け取り、移動先で用意していただいたお弁当を食べ、次の場所へと移動する……。

 生活している実感が乏しかったですね。”こんな生活のままでは、ますます自分を見失ってしまう。共感してもらえる曲が書けなくなる”という危機感が募りました。

 そこで、まずは小さなことから、自分の手で、足で行動しようと思いました。そのひとつが、前編でご紹介した”チョコレートを購入するときに、自分の目でお店で確かめながら買い物をすること”だったりするんです。

 普段スーパーも利用しますが、お肉やお魚、野菜も小売店で購入することがほとんどです。人と人のつながりを実感できるし、“どこ産の希少部位が入ったからこうやって食べるといいよ”って、レシピを教えていただくことも。大事な生活の景色です。

 そうした実感を伴った丁寧な暮らしをするようになると、“足るを知る”という感覚が芽生えてきました。

 そこで、次に取りかかったのが、いわゆる“断捨離”です。汗水垂らして頑張って手に入れた洋服やインテリアでしたが、いつの間にか“今の私には過ぎたものだな”と感じるようになっていました。だって、私の足は2本しかないのに“こんなにたくさんのパンツ、いったい誰がいつはくの?”って思っちゃって(笑)。

 時期的にデビュー10周年の節目を経たこともあり、心機一転、引っ越しを思い立ちました。その際に、持っているモノを友達に譲ったり、フリマアプリを利用して出品したりしたのですが、あまりの大胆な手放しぶりに周りの人たちから呆(あき)れられました(笑)。

 今の自分に何が必要かを知ることができたんだと思います。本当に大事なものだけを手元に残したことで、不思議にも満たされた気持ちになりました。

”物を持ちすぎないって、こんなに気持ちがいいんだ”という発見は意外でしたし、”大事なものだけあれば心配いらないんだな”って。私自身、“私がいれば大丈夫”と思えたんです。『Hikari』という曲は、そんな気づきや思いをテーマに書きました」

家入レオさん 撮影/松島豊