ミルクから読み解く、成長の物語

 映画にはさまざまなモチーフが登場するが、まずはレオンが日課として飲んでいるミルクに注目したい

 劇中では何度もミルクを飲む姿が見られ、そこにはレオンとマチルダという2人に相対する「成長」というキーワードが隠されているのではないか、と考える。ミルク、といって思い浮かぶのは、成長期の少年少女が好んで飲むものであり、飲むことで身体が成長していくもの──いわば成長という身体・精神的変化のメタファーだということだ。しかし、それを飲むレオンは成人男性であり、いくら飲んだところで彼の成長は止まってしまっている。

 しかし言及したいのは、本作の裏テーマが”レオンという男の成長”なのではないだろうかということであり、それを踏まえると暗喩的な意味合いとして本来子どもが好むであろうミルクを飲むレオン、という図式が存在する。ミルクを飲まないマチルダは、身体に反して心が大人のそれ以上に成熟している。レオンは孤独を極めたゆえ、人から愛されることや愛することに慣れていない。そんなレオンがミルクを飲む、というのはつまり、彼がマチルダに出会ったことで、停滞していた”愛”の成長を示唆(しさ)している、と考えることもできるだろう

ドレスが織りなす、成熟と幼さの対比

 また中盤では、レオンがマチルダにドレスを贈るシーンがある。そのドレスはピンクで、胸元に花飾りがあしらわれている。マチルダはそれを着て、「素敵?」とレオンに聞く。レオンは「ああ」と言う。しかし大人びたマチルダには幼いデザインで、彼女の成熟しきった性格からいうとそれは少し”幼稚”だ。

 このシーンでは、あえて幼さのあるデザインのドレスをマチルダに着せることで、彼女が抱いている”大人としての女性らしさ”を強調する役割を担っている。レオンはマチルダを子どもだと認識し、大人の女性として見ることができておらず、過去に愛した女性のこと、彼女と死に別れたこと、それ以来ひとりも女性を愛せない、という会話に続いていく。

 レオンの話を聞いて涙を流すマチルダ。彼女はあえてレオンに「素敵?」と聞いたのだ。外見ではなく、内面に眼差しを向けてもらいたいがために。

 ドレス、というモチーフによって”子どもっぽさ、幼さ” を顕在化させ、大人と子ども、成熟と幼さの対比が見事に行われたシーンである。