彼はなぜ、観葉植物を愛したか
もうひとつ、この映画には重要なモチーフが登場する。孤独な生活を送っていたレオンが相棒のように育てていた観葉植物だ。
住処(すみか)を転々とする中で、レオンは決して観葉植物を手放さなかった。そして終盤、窮地に追いやられたときも、マチルダとともに観葉植物を危険から遠ざけようとする。
なぜ、そこまでして植物を愛したのか? それは彼の人生が、今までどこにも根を張ることなく、安定した暮らしをすることが叶(かな)わなかったからだと考える。
レオンはいつか殺し屋から足を洗い、愛するマチルダとともに穏やかな生活を送りたかったに違いない。しかしそれは叶わなかった。どこか自由な場所で伸び伸びと生きていってほしいと、自身の思いを告げる代わりに、今まで手をかけて育ててきた植物を彼女の手に渡らせたのだ。
レオンと別れた後、再び孤独となったマチルダはレオンから託された植物を地に埋める。そうすることによって愛した彼への哀悼を捧げると同時に、レオンという人間への尊厳と永遠の愛を示したのだ。ひとりの男の生涯と、ひとりの少女に出会ったことによる変容を意図させる観葉植物は、本作で最も意味のあるモチーフなのかもしれない。
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ひとつの愛の形を描いた作品として、世界の片隅でしか生きられない密やかな関係を巧みに活写し、歪(いびつ)であるがゆえの美しさを確立させた『LEON』。レオンとマチルダ、ふたりが交わした愛はいつまでも映画の中で色あせず、観客の心の中にほろ苦い余韻を残しながら深く根づいていくだろう。
(文・安藤エヌ/編集・FM中西)