大石静の魔法にかけられた男性キャラは、ほかにも

 そのほかにも、大石静さんの魔法にかけられた男性たちはたくさん!

 中でも、いちばん印象に残っているのが、2020年放送のドラマ『知らなくていいコト』(日本テレビ系)で柄本佑さんが演じた尾高由一郎です。

 尾高は、フリーランスの動物カメラマンで、主人公・真壁ケイト(吉高由里子)の元恋人。“妻子持ちという設定が、こんなにもプラスに働くことあるんか?”と思ったのを覚えています。

 とにかく、色気がすごいんですよね。元恋人であるケイトに「(付き合っていたとき)なんで結婚したいなんて言ったの?」と聞かれて、「それは、ケイトを離したくなかったからだよ」とかサラッと言えちゃう。そんなん、また好きになっちゃうじゃん〜! 結局、ほかの女と結婚したくせに〜!

 ドラマを視聴されていない方は、この時点で思いましたよね。「いや、そんなの絶対に悪い男やん」と。そうです。尾高は既婚者だし、やっていることは最低。でも、最低に見えない。だって、ケイトを抱きしめるときに、愛おしそうに彼女の頭にアゴを置くんだもん。そんなん、愛してないとできないじゃん!

 ただ、本来の私は、どんなに美しい恋のお話でも、そこに不倫とか浮気が挟まると応援できないタイプなんですね。Netflixで配信されている『First Love 初恋』も、しっかり泣いたけど(泣いたんかい!)、結ばれた主人公ふたりのために、犠牲になった人たちのことを考えてしまいました。『silent』(フジテレビ系)も、戸川湊斗(鈴鹿央士さん)を見るたびに苦しくなったものです。

 それなのに、『知らなくていいコト』のケイトと尾高の恋は、なぜか応援できた。世間体とかモラルとか、そういうものをすべて捨てさせてしまう力が、尾高にはあったんですよ(実在していなくて本当によかった)。

 パッと見は普通の道だから、平気な顔をして歩いていたら、実はそこは“沼”だった……ということがよく起きるのが、大石静作品なのです。