普通のごはんだから、見ている人も想像しやすい
──作中で何度か登場する、郁哉が料理を作ってふたりで食べるシーンが大好きです。「食事をともにする」という時間がふたりにとってどんな意味があったと思いますか。
今作において食事のシーンはすごく大事で、ふたりにとってもとても大切な時間だったと思います。2話に出てきた回想シーンで「おそばができたから食べよう」と声をかけたけど、律がイラストに集中していて「今はまだ食べない」ということもあったり、記憶をなくした今、向かい合ってまた一緒に食べてくれたり。そのどれもが、郁哉にとってはかけがえのない時間だと感じました。
この作品も見てくださる人が二人を身近に感じる理由のひとつに、郁哉が作るメニューがどれも普通のごはんであることだと思うんですよ。味はおいしいけど、豪華じゃない。だから見ている人も、味の想像がしやすいんじゃないかなって思います。
──確かに、これまで郁哉が作っていたのは、チャーハンやおそば、カレーなど、どれも一般家庭で作るものばかりでしたね。
よくドラマに出てくるお料理って、見たことのないような豪華なメニューなことが多いじゃないですか。「なんだこれ、おいしそう!」とは思うんですけど、今作ではあえてリアルな部分を追究しているからこそ内容も入ってきやすいですし、見ている方も共感できるところが多いのかなと思います。
──1話で、律が自分に関することだけを覚えていないとわかったときの郁哉の表情や目線の動かし方、息遣いだけで、郁哉の複雑な心境を表現されているなと感じ、とても心に残っています。
表現の仕方ってたくさんあるじゃないですか。一番わかりやすいのは、セリフを言えばその答え合わせができるけど、何もセリフを言わずに数秒間「無の時間」がお茶の間に流れる。そのときに僕がしくじった演技をしたら、作品を台無しにしてしまうっていう怖さはありました(笑)。
でも、普通だったらモノローグを入れたくなりそうなシーンですが、そこを郁哉の顔のアップだけで長く時間を使っていただけたので、僕のことを信じてくださった安川監督と高橋監督に感謝しています。