菅波は森林組合に併設された診療所の医師。当初はかなり無愛想でとっつきづらく、夢中になれるものを見つけたいと迷走する百音に対して辛辣(しんらつ)な言葉を投げかけることも。そんな菅波には新人のころ、担当したホルン奏者である患者の命を救うも、肺機能を十分に残すことができなかったという苦い経験があります。つまり彼自身、医師として「自分は何もできなかった」という無力さを抱えていたんです。

 菅波にとって、百音は過去の自分を見ているようで気恥ずかしいような、だけど放っておけない存在だったのでしょう。気象予報士を目指す百音に菅波が勉強を教えるうちに、ふたりの距離は少しずつ縮まっていきます。互いに影響し合い、成長し、確実に特別な関係になっていっているのに、どちらも不器用だからなかなか恋人には発展しない。そんなスローテンポで進んでいく恋愛に「あ〜もう、もどかしい!」とヤキモキしながらも、夢中になりました。

 そして、ついに菅波から百音に贈った

「あなたの痛みは僕にはわかりません。でも、わかりたいと思っています」

 という愛の告白。

 それは同時に、本作の大きなテーマでもあります。当事者と非当事者の間には埋められない溝がある。それでも、当事者の痛みに寄り添い、癒したいという非当事者の願いは、ときに重要な“手当て”になる。百音と菅波の関係はそのことを私たちに教えてくれました