「Sexy Music」はカップリングに力を入れていた

 では、ここからはWinkのランキングを見ていこう。

 Spotify再生回数第4位は、'90年発売の「Sexy Music」。'81年にノーランズが発売した楽曲のカバーだが、Wink版のほうがノーランズをリードしている(Wink版は約77万回再生に対し、ノーランズ版は約59万回)

「Sexy Music」のジャケット写真は大きなハットが目を引く

 ただ、及川の歌詞にしては、ちょっと言葉が軽い感じに聴こえることが気になっていたが……。

「まさにリズム重視で書いたので、歌詞にそこまで思い入れはないですね(笑)。実は、最終的にカップリングになった『いちばん哀しい薔薇』のほうに注力して書いていたんです。Winkはすでに大ヒットしていたから、いろんな“船頭”がいて、急きょ、『Sexy〜』がシングル(表題曲)に決まったんですよ」

 とはいえ、及川の日本語詞は洋楽曲でも間延びする感じがまったくなく、やはりプロの仕事だと、一聴してすぐわかる。

 さらに、Spotify第7位と第10位には、「LOVE IN THE FIRST DEGREE~悪いあなた~」「Especially For You ~優しさにつつまれて~」といったアルバム曲がランクイン。オリコン1位曲の「涙をみせないで」(第8位)や「One Night In Heaven」(第9位)と同レベルで、50万回ほど再生されているから驚きだ。「LOVE IN〜」はバナナラマ、「Especially〜」がカイリー・ミノーグ&ジェイソン・ドノヴァンの外国曲カバーで、いずれも原曲のヒットがWink版の人気につながっている。アゲアゲのユーロビートとメロウなラブ・バラードという、まったく異なる曲調だが、及川によると「曲調を意識して特に使う言葉を変えたつもりはない」とのこと。

「ニュー・ムーンに逢いましょう」は集大成のつもりが……

 そして、Spotify第12位には、'90年のシングル「ニュー・ムーンに逢いましょう」がランクイン。当時、本人たちが出演するパナソニックCMソングとして、テレビでよく見かけた人も多いだろう。

「ニュームーンに逢いましょう」は8mmCDで発売。アジアンテイストな衣装に身を包んだ2人の妖艶さが光る

 筆者はこの曲が、どこか恋愛ドラマのエンディングテーマのように聴こえるのが気になっていたので尋ねてみた。

そう! ここで、“Wink・第1章”のエンディングになるよう、Winkらしいキーワードを散りばめて集大成にしたんですよ。“禁断のダンス”とか、まさに言葉遊びですよね。なにそれ? って(笑)。決してキャンディーズの『微笑がえし』のようにそれまでに出した楽曲のタイトルを出していったのではなく、Winkならではの要素を入れていますね。

 Winkは、ガールズポップ全盛の時代に強い女性たちが台頭する中で、その逆を行かせつつ、バブルの時代に取り残されたイメージで作ってきたんです。なおかつ、キラキラした言葉と対比させるように、あえてガッチリした言葉を入れることでインパクトを出しています。あの子たちの歌声は、そういう“引っかかるもの”がないと流れてしまうので。それをてんこ盛りにした『ニュー・ムーンに逢いましょう』で、私自身も(Winkの作詞をすることに)幕を下ろすつもりでした

 しかし、実際にはここからさらに2年続いた。確かに、Winkのオリコン1位シングルは「Sexy Music」までの5作だが、この年はバンドブームが最高潮、翌年からはドラマ主題歌のメガヒット時代に突入するという“アイドル冬の時代”。Winkはその中で週間TOP10入りをキープしていたのだから、そう簡単に(及川の)降板はないだろう。

「しかも、Winkの場合は、シングルを年に4枚、オリジナルアルバムを2枚というハイペースで作っていたので、詞も曲も同時進行でした。そのうち6割の作詞が私だったから、ずっと休んでいない感じでしたね。さらに、同時期にCoCoや早坂好恵も担当していたんですが、だいたい2時間あれば1曲書けたし、週3日は朝まで飲んでましたから、睡眠時間もたっぷりありましたよ(笑)」

 実際に人気曲を見ても、上位15曲中9作が及川による作詞曲。これはWinkサウンドの核心を担っている船山基紀や門倉聡よりも多い割合であり、いかに及川がWinkワールドに貢献しているかがよくわかる。

当時を懐かしむ及川さん。それにしても、週3で朝まで飲んで仕事もバリバリこなしていただなんて、バイタリティにあふれている! 撮影/山田智絵