「一度世に出た作品は世の中のものだと思っています」

 及川以外の上位6曲についての感想も尋ねてみた。

「私は、自分で書いたものさえ聴き返さないので……(笑)。ただ『One Night in Heaven』は、松本隆さんの作詞曲ですが、(全然違うテイストでくるかと思いきや)ディレクターからの指示があったのか、それまでどおりのWinkの世界観でした。『咲き誇れ愛しさよ』(第11位、作詞:大黒摩季)や『結婚しようね』(Spotify第47位、作詞:康珍化)は、かなり(いい意味で)裏切っていますよね

 また、第14位にはNight Tempo Mixの「Get My Love」(作詞:芹沢類)がランクイン。及川が作詞した第1位の「淋しい熱帯魚」もNight Tempoによるリミックス版が出ているが、彼のMixはビートを重視して、言葉や歌声を大胆に区切っていくのが特徴。作詞家として、このアレンジをどう思っているのだろうか。

「私は、一度世に出た作品は世の中のものだと思っているので、どう歌ってくれても、たとえ言葉が聴こえなくても、どんな替え歌にしてくれても一向にかまいません。でも、楽曲を使うときはちゃんと許諾を取ってください、というスタンスです」

及川のイチオシ曲は、広谷順子とのタッグで誕生

 さらに、16位以下を見ると、'91年のシングル「きっと熱いくちびる」「真夏のトレモロ」「背徳のシナリオ」などが並ぶ。「真夏のトレモロ」「背徳のシナリオ」「追憶のヒロイン」と、このころ、3作も“〇〇の△△△△”シリーズが続いた理由も含め、この時期のエピソードを教えてもらった。

「背徳のシナリオ」ジャケット写真。2人がまとう紫色がセクシーさを醸(かも)し出す

“〇〇の△△△△”パターンのタイトルは、先ほどの“Wink・第1章”までは、ほかのアイドルっぽくなってWinkらしさが薄れるのでは? と思って、シングルでは絶対にやらないと決めていたんです。でも、(降板するつもりだったところ続投になったので)モチベーションを保つために『真夏のトレモロ』で解禁したんですね。このシリーズの中で、『背徳のシナリオ』は、特にゲイの方々に人気があるんですよ。

 私の中で、いちばん言葉がうまくハマったのは、アルバム『Velvet』に収録された『夏服のジュリエット』(Spotify第80位)なんですよ。これは、仮歌ボーカルをやってくれていた広谷順子さんとの共同作業がとてもスムーズでした。洋楽曲って、メロディーに言葉をはめて歌うのにあたって、言葉の間隔などを“もう少し寄せてほしい”、“もう少し空けてほしい”っていうことがどうしてもあるのですが、順子ちゃんがそれを熟知して完璧に歌ってくれたのがこの『夏服のジュリエット』。その他のシングルでも、彼女が仮歌を歌うと、日本のオリジナル曲でも外国曲でもバッチリでしたね」

及川さんが太鼓判を押す「夏服のジュリエット」が収録された『Velvet』

 ちなみに「夏服のジュリエット」は相田翔子のソロ曲で、女性が愛に目覚めていくというセクシーな雰囲気を保ちつつ、気品を保ったラブソングとなっている。原曲はメキシコの女性歌手CARMINによる楽曲で、美しいバラードという点はWink版にも反映されているが、スペイン語独特のクセのある聴感は、バラードゆえに、そのまま日本語にすると難しそうだ。Spotifyにも音源があるので、気になる方は聴き比べてほしい。オリジナルの歌詞に加え、“Dos Hombres”=“2人の男”を意味するタイトルから、“夏服のジュリエット”と、よりWinkらしいタイトルをつけた及川の手腕にも唸(うな)らされる。

 それにしても、30年以上前の楽曲にもかかわらず、どのような思いでそれぞれの曲を作ったのか、及川がこちらが思う以上に憶(おぼ)えていることに驚かされる。それは前述のように、単純に強い言葉が使われているからというよりも、一つひとつの作品にプロとしての責任やプライドが備わっているからだと感服した。彼女が描くWinkの歌詞は、サウンド重視で聴き心地のいい言葉を並べるという近年のJ-POPの中にあっても、異彩を放つことだろう。

 ラストとなるインタビュー第3弾では、さらに下方にあるWinkの人気曲や、近年、及川が取り組んでいる“知のアジト”について語ってもらおう。

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(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)


【PROFILE】
及川眠子(おいかわ・ねこ) ◎作詞家。1960年2月10日生まれ、和歌山県出身。'85年三菱ミニカ・マスコットソング・コンテスト最優秀賞作品、和田加奈子『パッシング・スルー』でデビュー。Wink『愛が止まらない』『淋しい熱帯魚』('89年度日本レコード大賞受賞)、やしきたかじん『東京』、新世紀エヴァンゲリオン主題歌『残酷な天使のテーゼ』('11年JASRAC賞金賞受賞)『魂のルフラン』、CoCo『はんぶん不思議』等ヒット曲多数。著書には『破婚〜18歳年下のトルコ人亭主と過ごした13年間』(新潮社)、『ネコの手も貸したい』(Rittor Music)などがある。数々の歌い手に詞を提供するとともに、ミュージカルの訳詞や舞台の構成、CMソング、アーティストのプロデュース、エッセイやコラム等の執筆や講演活動も行っている。

【INFORMATION】

及川眠子 会員制オンラインコミュニティサイト「知のアジト」発足!
 及川眠子が気になった出来事をつづったり、会員同士で「推し」を紹介し合ったり、及川眠子とさまざまなジャンルのクリエイターが語ったりする中で、会員の“知的好奇心”を刺激し、また、人と人との新たなつながりを生み出すためのコミュニティサイト「知のアジト」が'22年に誕生。詳しくは公式サイトへ!

◎「知のアジト」オフィシャルサイト→https://chinoagito.com/about
◎及川眠子オフィシャルサイト→http://www.oikawaneko.com/
◎公式Twitter→@oikawaneko