タイで大ヒット、佐賀を舞台にしたタイドラマ製作に携わる
高杉さんがタイに住んでいたころ、タイ映画を見に行くのが好きだったという。いつか、タイの文化芸能関係の仕事に携わりたいと思っていたものの、当時の日本ではそういったニーズは皆無だった。
「2000年くらいに『アタック・ナンバーハーフ』や、『マッハ!』といったタイ映画が日本でも公開されて話題になりましたが、国際映画祭でもタイ映画がたまに上映されるくらいでした」
生活を支える仕事は企業案件のものがメインだったが、国際映画祭の通訳や字幕監修などの仕事には細々と携わっていた。2015年には、佐賀を舞台にしたタイドラマ『STAY Saga 〜わたしが恋した佐賀〜』(全4話)の撮影中の通訳や翻訳、世話係などを一手に引き受けることとなった。
このドラマ、日本ではあまり知られていないが、タイでは大ヒットした。タイで「佐賀に行きたい!」という佐賀ファンが多く誕生し、佐賀を訪れる観光客も大幅に増えたという。
「佐賀県のフィルム・コミッションが誘致したドラマのロケなのですが、私にも声がかかったので一緒に誘致して、撮影が決まったら通訳、脚本やスケジュール表の翻訳、日本語のセリフの発音指導など、なんでもやりました。
撮影が終わった深夜も翻訳作業をしていたので、昼間に撮影しているときにカメラの後ろで半分寝ながら通訳していたら、撮影監督に呆(あき)れられました(笑)」
この撮影がきっかけで、佐賀でタイフェスティバルが開催されたり、佐賀を訪れるタイ人観光客を地元の人たちがボランティアでガイドしたり、と交流が始まったという。交流団体「サワディー佐賀」が発足し、高杉さんもメンバーのひとりとして参加している。
「このドラマを見て、佐賀大学に留学したというタイ人留学生も結構いまして、私はときどき、若い人が使うタイ語をオンラインで教えてもらっています。常に新しい表現が出てくるから、アップデートしないと若い俳優さんの言葉がわからなくなってしまうこともあるんです」
例えば、「ティット(くっつく)」と「ロム(風)」という単語を重ねた「ティット・ロム」という表現がある。直訳すると「風がくっつく」ということになるが、これでは何のことだかわからない。
「ある俳優さんのインタビューで、“芸能の仕事はスカウトされたのがきっかけだったのですが、今は(ティット・ロム)なので、続けています”と言ったのですが、この単語は“楽しくなってきた”という意味なんです。
知らなかったら通訳できないわけで、若いタイ人に若者言葉を教えてもらう必要があるんです」