子どもの心の傷に気づかない人たち

 メディアにもたびたび登場する北村晴男弁護士らが率いる団体「民間法制審議会」が共同親権を原則とした独自の中間試案を発表しており、共同親権を推進する人たちがこの試案を強く後押ししている。この試案を読んでみて思ったのは、子どもに会えない別居親目線の内容だということだ。

 その中で、私が最も妥当性を欠くと思うのは、「面会交流が子の生命等に危害の恐れのあるときには監視付きの裁判所命令」という項目だ。おそらく、国内外で発生している面会交流における殺人事件の防止策のつもりなのだろうが、子どもの心のケアがまるっと抜け落ちている。

 直接虐待を受けた子どもはもちろん、夫婦間暴力を目撃しながら育つ子どもは直接暴力を受けなくても、心身の不調を生じやすい。私が取材したDV被害女性からは、「担任が男性だと子どもがおびえてなじめない」という話も聞いた。虐待の後遺症は深刻で、大人になってからもPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病などで通院を要する人も少なくない。このような状態にある子どもにとって、加害親に会わせることは二次被害になりかねない。

 DV被害者支援団体を取材したとき、「面会交流中は別居親の機嫌をとろうと、ニコニコして接するけれども、帰宅してから夜尿症や夜驚症などさまざまな身体的症状が出る子どもがいる」という話を聞いた。子どもは幼くても大人が思っている以上に大人を見ており、考えてもいる。ただ、言葉で説明する力がまだ備わっていないため、身体症状などに現れてしまう。

 このように、裁判所や弁護士といった法律の専門家でも虐待された子どものトラウマ(心的外傷)については熟知している人があまりにも少ないのが現状だ。

 共同親権推進派が唱える「子どもの最善の利益」というのは、「子どもは親が大好き」という鉄板の前提で成り立っている。もちろん、そういう子どものほうが多いのだろうが、中には親に会いたくない子どもが一定数いることに目が向いていないように感じるのだ。

*後編に続きます。

(取材・文/ジャーナリスト・林美保子)

〈PROFILE〉
林美保子(はやし・みほこ)
ジャーナリスト。DV・高齢者・貧困など社会問題を取材。日刊ゲンダイ「語り部の経営者たち」を随時連載(2013年~)。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)がある。