日本では子を持つ夫婦が離婚するとどちらか一方が親権者になる「単独親権」が採用されていますが、現在、国の法制審議会が親権制度を見直すかどうか議論を進めています。父と母の双方を親権者とする「共同親権」を導入する案も検討される中、この親権問題についてジャーナリストの林美保子さんがリポートします。<後編>
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親権問題を語るときには、だれもが、「子どものため」「子どもの最善の利益に」という言葉をまるで枕詞のように使う。しかし、離婚家庭に育った子どもだった私から見ると、その言葉の背後には、むしろ親の権利を優先しているのではないかと思われるような言動が見え隠れすることがある。
子どもの学校行事でエゴを押し通す別居親たち
離婚家庭が増えている今日では、学校行事への参加を希望する別居親が増えている。一緒に並んで授業参観や運動会の観戦をする元夫婦もいれば、距離をとって参加をする元夫婦もいる。多くは、節度を持って子どもを見守っているのだが、中には困った行動をする別居親もいるという。
小学生の娘を持つA子さんは、コロナ禍前の運動会や授業参観でそんな父親Bさんを見てきた。A子さんの娘とBさんの息子は小学2年から4年まで同級生だった。
Bさんは参観日に出席すると、教室の後ろで参観するという決まりごとを無視して息子の席の横や後ろにつく。
「近くの席の児童たちも迷惑そうな顔をしていましたし、何よりも、Bさんのお子さんが嫌がっていました」と、A子さんは語る。
授業中であるにもかかわらず、教室の中を移動しながら動画撮影も始める。教師に注意されると、いったんは引き下がるが、少したつとまた元の木阿弥だ。参観が終了して休み時間になっても居すわり、息子にまとわりつく。
「お母さん(Bさんの元妻)も困り果てて、肩身が狭そうでした」
Bさんは運動会でも、保護者の立ち入りが禁止されている児童席や入場門にやってきて息子に話しかけ、撮影をする。息子が嫌な顔をしていてもお構いなしだ。
「お父さんには来てほしくないんだけれど、お母さんが約束しちゃったから仕方ないんだ。ごめんね」
そう言って、Bさんの息子は同級生に謝ったそうだ。ほかのクラスの児童からは、「おまえの父ちゃん、ウザイよな」とからかわれていた。
こうしてBさんは10回近く学校行事に参加していたが、息子は4年の2学期から学校行事を欠席するようになった。そして、翌日になると、同級生から行事の話をうらやましそうに聞いていたと、A子さんは娘から聞いた。
その後、Bさんの息子は突然転校してしまった。
A子さんは、ほかのクラスや他校に通う子どもを持つ友人からも似たような話を聞く。
「はじめは別居親に学校行事を知らせていたけれども、参加時のマナーが悪いために調停まで起こして参加を断ったケースや、“パパが来るなら欠席する”とお子さんが嫌がったために断ったケースもありました」
2020年11月20日に開かれた衆議院文部科学委員会で、萩生田光一文部科学大臣(当時)は、次のように述べている。
「学校行事の現場に来て、そのお子さんのみならずほかのお子さんにも迷惑をかけるような対応は、正直、文科大臣としては迷惑な話だなと。(中略)良識ある大人だったら、子どもの教育現場に来て、親の権利だけで、見せろとか入れろとかということで学校の先生たちに迷惑をかけるのは~(後略)」
文科大臣がここまで踏み込んだ発言をするということは、A子さんの話は決してレアケースではなさそうだ。