「共同親権か単独親権か」の二択の問題ではない

 海外では、20世紀後半にアメリカやイギリス、オーストラリアなどで父権運動が起こり、共同親権も制度化された。現在の日本は、そのころの欧米と酷似しているように思う。つまり、それらの国では、すでに20世紀後半に離婚家庭が増えて、それに伴う問題が出てきたわけで、日本も離婚家庭の増加によって似たような問題が数十年遅れて出てきたものと考えられる。

 最近では、共同親権の問題点も少しずつ出てきて、法改正の動きがある。例えば、オーストラリアでは離婚や離婚後の子どもの養育に関する連邦家族法が定められているが、2006年の法改正で両親による養育時間分担を重視し、離婚後に同居していない親と子どもとの面会交流が推進されるようになった。

 ところが、その結果、DVや激しい対立など共同での養育が難しい家族の問題が浮かび上がり、崩壊する家庭の中でのDVの存在に対して慎重に対処することを目的とした法改正が再び行われた。

 さらに、今年1月にオーストラリア政府が発表した法改正案では、「共同での養育にこだわらず、それぞれの家族の状況に応じた子どもの利益の実現を重視している」(出典:2023年3月8日NHK)とされている。

 また、イギリスでも、2014年の児童法改正で「子どもに危害が加えられることを示す証拠がない限り、親子の関わりを継続することが子の福祉を促進する」と推定して、同居していない親と子どもの面会交流を重視した。しかし、2020年に司法省が公表した『面会交流等離別後の子の養育に関する裁判の評価報告書』では、面会交流を推進した結果、子どもの安全が脅かされる事例が明らかになったとして、前述の推定を見直すことを勧告している。

 ただし、オーストラリアもイギリスも「共同親権」というスタンスは変わっていない。

 特筆すべきはオーストラリアでもイギリスでも、日本語の「親権」にあたる言葉は「親の義務・責任」を意味する。そこには、「親の権利や気持ち」ではなく「子どもの立場、特に安全」を第一に考える価値観がうかがえる。その点においては、日本でも、適切な用語に見直す案も出ているようだ。

 共同親権も単独親権も、メリットデメリットがある。現行法である単独親権では、同居親に問題があった場合、別居親は手出しができにくいというリスクがあるようだ。共同親権だと、DVや虐待の支配から逃げられないという懸念がある。

 欧米の多くは共同親権ではあるが、日本と違って裁判所の介入を経て離婚が成立する。養育費やDV加害者更生プログラムの受講にも強制力がある。裁判所のマンパワーが不足ぎみで、個人の裁量に任されることが多い日本の制度の上に、海外の制度をそのまま乗っけても実状に合わない部分も出てくるのではないか。

 いずれにしても、修正すべき点はあるように思う。先を行く欧米諸国における共同親権制度の問題点を洗い出し、研究してから、日本の親権問題を考えたほうがいいのではないだろうか。

 そして、本当の意味で、子どもの利益を最優先に考えてもらいたいものだ。

(取材・文/ジャーナリスト・林美保子) 

※海外の事例の箇所について加筆修正しました(2023年3月30日0時30分)

〈PROFILE〉
林美保子(はやし・みほこ)
ジャーナリスト。DV・高齢者・貧困など社会問題を取材。日刊ゲンダイ「語り部の経営者たち」を随時連載(2013年~)。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)がある。