「ささやかな人」代表の貴司はどうなってしまうのか

 3月20日からの第25週は主に、舞(福原遥)の大学時代のサークル「なにわバードマン」の先輩2人が起業したドローン開発会社「アビキル」の話だった。刈谷(高杉真宙)が舞に「倉庫を知らないか?」と電話してきたのが24週の最終日、その回のうちに舞は倉庫を見つけ、25週は「空飛ぶクルマ」の順調すぎる開発が描かれた。

 舞の会社「こんねくと」と「アビキル」が業務提携をすると、不安定だった飛行も安定し、出資者も見つかる。現実に2025年開催の大阪万博の目玉が「空飛ぶクルマ」と知ってはいるが、それにしても「こんなにうまくいく?」と思う。ドラマが安直な展開になっていて、どうも白けてしまう。

 とはいえ、ギリギリのところで『舞いあがれ!』を見捨てずにいる。心に残る台詞が週に一度くらいは出てくるのだ。25週では刈谷の台詞がそうだった。「開発は孤独やけん、自分でも空飛ぶクルマの実現を信じられんくなるときがあったとよ」。空飛ぶクルマを開発したことはない。でも、仕事とは孤独なものだし、人生もそうだ、それでも少しずつ歩んでいくしかない。そんなことを思ったのだ。最近の『舞いあがれ!』に欠けがちな自省的な感覚とでもいうべきか、つまり落ち葉が舞って猫が横切っている世界観だ。

『舞いあがれ!』で刈谷を演じる高杉真宙(左)と貴司役の赤楚衛二 

 ところで「こんねくと」大成功の横で、貴司(赤楚衛二)は行き詰まっていた。『舞いあがれ!』の世界観を最も体現していたのは、貴司だと思う。ささやかな人は優しく、そういう人が生きやすくないのが今なのだ。3月24日の放送でパリへと貴司が旅立ったのは、コロナ禍直前。どうなるのかと気が気でないが、残りは1週間。舞の夢の行方も描かなくてはならないだろうから、貴司がどこまで描かれるか。あー、心配だー。

(文/矢部万紀子)