東京にも、誰もがふらっと立ち寄れる居心地のいいコミュニティを
──田中さんの空き家活用プランがあれば、ぜひ教えてください。
「足湯カフェを開きたいです。都内は難しそうなので、私の地元の浜松と東京の中間にある熱海で。温泉大好きなんです」
──足湯カフェは東京でも増えてきてますから、都内でも可能な気はします。廃業する銭湯も増えているので、そことうまく組んだりして。
「確かに! 銭湯が減ってるのは悲しいですよね。ちょっとしたプラスアルファのアイデアやデザインを付け加えれば流行(はや)りそうなモノって、たくさんあると思うんです。銭湯もそうですよね。確かに都内のほうが流行るかも、足湯カフェ……」
──やっぱりお店のように人が集まる場所がいいんですか?
「カッコつけたような言い方ですが私、コロナ禍でひとりぼっちになって涙を流しながら生きてたんですよ。もう、ホントに寂しくて。家にひとりでいるのも好きだけど、思い立ったらすぐに行けて人とふれあえる空間が欲しいなって。例えば、音楽が好きな人が多く集まったら即興で演奏が始まるような、そういった自由なコミュニティを作りたいんです。だからカフェじゃなくてもいいのかも。長居してほしいから足湯を考えてますが、本当に居心地のいい場所を提供したいと考えてます」
──コロナ禍で人と人とのつながりの大切さを、あらためて感じるようになったわけですね。
「コロナ禍が始まって2か月くらいまったく稼働できない時期があって、なるべく外に出るなって雰囲気でしたよね。特に私は芸能人だから、無闇に出歩かないと決めて。私みたいな人は、いっぱいいたと思うんです。当時は人に会いたくて公園に行ってましたもん。
東京にもいろんなタイプのコミュニティ空間があっていいと思うんです。『喫茶ランドリー』(※2)という素敵なカフェがあるんですけど、私の地元にもあればいいなって思ってます。
(※2)株式会社グランドレベルが企画・設計ディレクションを行う、洗濯機・乾燥機やミシン・アイロンを備えた「まちの家事室」付きの喫茶店。「どんなひとにも自由なくつろぎ」をコンセプトにしている。
──この春からマスクの着用も任意になって、徐々にコロナの影響は終息しつつあります。
「どうなるんですかね。ただ、私が一級建築士の勉強を始めたのもコロナ禍の影響なんです。もともとは東日本大震災を経験して、世間が未曾有の危機に陥ったときに駆けつけて人々を支える存在になりたいと考え、一級建築士を目指すようになりました。でも、私はその後に芸能界に入ったから建築士の夢をいったんは保留にしたんです。それがコロナ禍になって当時の気持ちを思い出して一念発起しました。ですから、私にとってコロナ禍とは逆風だけではなく、夢を叶(かな)えるきっかけにもなりました」
子どもたちの夢の幅を広げるために、いろいろな経験をさせてあげたい
──では、晴れて一級建築士に登録された後の夢を教えてください。
「これは完全に夢なんですけれど、働く女性に優しい会社を作りたいです。私の周りでも子どもが生まれて夢を諦めたり、せっかく資格を取っても子育てで生かせないケースがあるので、働く女性の目線に立った会社を設立したいと考えています。あとは、子どもの将来の夢の幅を広げるような施設です。私は子どものころにピアノを習っていて将来の夢はピアニストだったけれど、それって他を知らないから夢がそれしかなかったんです。タモリさんが以前、“子どもに夢を追いかけろと言うくせに、何も経験させてないじゃないか”といった趣旨の発言をされていたんですが、これは本当に共感できます。子どもたちの将来の道しるべになるような体験を提供する施設ができたらいいですね」
──女性と子どものための施設ですか。
「まじめな言い方になるけれど、私なりの社会貢献ができたらなと思います。ただ、私はまだ試験に合格しただけで実務経験もほとんどないので、経歴と自信をつけて初めて堂々と発言できると思ってます」
──今は建築業界からも田中さんに注目が集まっていると思うので、積極的に発信したほうが実現に近づく気もします。
「実績がないのに夢を語るのはなんだか偉そうで、少し日和(ひよ)ってる部分もあります(笑)。私が通った資格の学校でも同じ試験を受けた人はたくさんいますが、中には落ちてしまって泣いている人の姿も見てきたので、複雑な気持ちがあるんです。でも、世間のみなさんは“おめでとう”と言ってくれるから……。そうですね、そこは意識を変えたほうがいいかもしれませんね。私が二足のわらじでやっていくことは、建築業界にも相乗効果があると信じて続けていきます」