TRUMPの誕生に、テニミュもかかわっていた!?

──演劇との出会いは、佐々木蔵之介さんらが所属していた「惑星ピスタチオ」の舞台を観たことだったそうですね。

 無味乾燥な高校時代だったんですが、テレビの深夜番組で惑星ピスタチオの公演を放送していて、それをバイト先の先輩がビデオに録画していて貸してくれたんです。演劇なんて、学校の演劇鑑賞会でしか知らなかった僕にとって、惑星ピスタチオの作品は「こんなに面白いものが世の中にあるんだ!」と衝撃的なもので、自分の中で価値観の大転換が起こりました。僕というひとりの人間の中で演劇の常識がパラダイムシフトしたんです。

 そのころ中3でちょうど進路を考えないといけない時期でもあり、(惑星ピスタチオの)この人たちと一緒に何かやりたいという一心で劇団の門を叩(たた)きました。何度か断られましたが、なんとかかんとか「制作業務のお手伝いでなら」と見習いとして末席に加えていただきました。

──惑星ピスタチオが2000年に解散した後、自身で「ピースピット」を主宰し、俳優・脚本・演出と何役もこなしながら、2009年に『TRUMP』が上演されます。このとき、なぜヴァンパイアを主人公に据(す)えたのでしょう。

 登場人物たちが支配する、支配されるの主従関係のドラマを舞台で描こうと考えたときに、(支配関係が生まれる)きっかけとして、「咬(か)む」という行為が思い浮かんだんです。

 それがまず前提としてあって、あとから「吸血鬼モノ」という要素が加わりました。そのような流れもあり、咬む・咬まれるという行為で生じる「イニシアチブ」という設定はTRUMPシリーズの中でも象徴的なものとなっていきました。「吸血鬼モノ」はそれ自体が書きたい主題ではなくあくまでパッケージであって、描きたいものはもっと根幹部分に潜んでいるテーマのほうですね。

──「イニシアチブ」は劇中でヴァンプが他のヴァンプを咬むことで、咬まれたヴァンプを服従させる、TRUMPの重要なキーワードですね。

 結果的に多くの「吸血種モノ」についてまわるゴシック・ファンタジーの要素も取り入れれ、世界が重厚になり、作品のひとつの魅力となりました。そこの部分は、お客さんにもエンタメ要素のひとつとして楽しんでいただけているようです。

 それと当時、僕は大阪の小劇場で活動していたのですが、動員数の低下などで業界は低迷傾向でした。『TRUMP』初演の際は、ストーリーや配役にかなり仕掛けをして、若い新規のお客さんを呼び込もうと試みていました。そのころに耳にしたのが、当時台頭し始めていたテニミュの噂でした。

──ミュージカル『テニスの王子様』も影響を与えていたんですね。

 東京ではテニミュというものがすごく流行(はや)っていて、若い俳優たちが注目されて毎公演チケットが完売するほどの人気らしい、と芸能ニュースか何かで知りました。それに倣(なら)って自分たちも、そういう集客の見込める公演を打ってみようと考えました。でも僕の周囲には当時、演技は抜群にうまいけど平均年齢30オーバーのベテラン役者しかいませんでした。それを逆手に取り、芝居がむちゃくちゃできるベテラン役者たちにあえて美少年の役をやってもらったら、それはそれで演劇として面白いものになるだろうなと考えました。そこに関しては若手役者の登竜門と呼ばれるテニミュとは、また別のアプローチですね。

 演劇って、歌舞伎や宝塚のように、役者が本人と全然違う年齢・属性の役も演じられる面白さがありますよね。『TRUMP』の初演作で僕もそういう演劇的効果を狙って、もう中年といっても差し支えのない年齢の役者たちに10代の美少年役を本気で演じてもらいました。もちろん、実力者ぞろいの役者たちだから芝居そのものも見ごたえも十分でしたし、そこに若い女性客に興味を持ってもらえるような要素を随所に織り交ぜたものだから、小劇場では異例といっていいほどの熱狂的な盛り上がりを見せた公演となりました。

 話題性だけでないクオリティの高い舞台を作って、大阪から演劇業界を盛り上げるヒット作にしたいという野心があったし、その後にこの作品を東京でも展開していけたのはとても有難かったですし、戦略がうまくハマったという手ごたえもありました。