アイドルだけで演劇に挑戦、衝撃で客席が沈黙した『LILIUM』

──その後もシリーズが続いていきますね。3年後に『TRINITY THE TRUMP』では男性だけ・女性だけのダブルキャストで上演したり、今度は本当に若手俳優の方々でヴァンプの少年を演じた『TRUMP』(通称Dステ、2013年)として再演したり。

 2009年の初演作で描いた、ソフィとウルというふたりの少年を主人公にした脚本は、再演のたびに出演者が異なり、5つのカンパニーでの役者さんに演じていただいてきました。初演・再演と同様に、再々演であるDステ版でもTRUTHバージョンとRIVERSEバージョンという、関係の深い登場人物が互いに役を入れ替えながら演じる、なんてこともしましたね。シリーズものとはいえ、演じる役者によってまったく解釈が違ってくるところも興味深いチャレンジでした。

 原作ありの舞台では、所作から声色から何もかもを原作キャラクターに寄せるという演技方法もありですが、『TRUMP』は作品ごとにキャスティングが変わりますから、同じキャラクターでも演じる役者によって違ってくる表現を楽しんでもらえればと。『LILIUM』再演もオーディションでキャストを一新しました。初演のときは叙述トリックなどでお客さんに大きな驚きをお届けできました。

 でも、今回の再演では多くのお客さんが話の内容を知っている。それはタネがバレている手品をするようなものですよね。だから再演の新約版ではギミックに頼れない分、密度とクオリティで勝負しなくてはならないと考えています。初演の衝撃は、初演だからこそできたことですから。

──そんな衝撃を与えた『LILIUM』はそれまでのTRUMPとはまったく違うものになりました。モーニング娘。とスマイレージ(現・アンジュルム)のメンバーでの上演で、アイドルが吸血種を男役、女役ともに演じるのも初めてでした。

 まだあの時代、アイドルが演劇に出演したり、アイドルだけで舞台を演じること自体が珍しかったですね。今はかなり定番化してきましたが。僕はアイドル演劇黎明期ともいえる当時のタイミングで、『LILIUM』をほとんどが10代のハロプロメンバーで上演するという機会をいただきました。

 TRUMPシリーズって、観ていただいたらわかるんですがどの作品もダークでハードな作風なんですよ。だからアイドルファンのみなさんにとっては、アイドルがそういった演目に挑戦するということ自体がセンセーショナルだったのかもしれません。大きな反響がありましたし、そのときのインパクトがあったからこそ、後にシリーズ15年目でのリメイク上演にもつながったのかなと思います。

──初演の際、クライマックスが衝撃的すぎて初日に客席がしばらく沈黙してしまった、というエピソードがありました。

 あれはハロプロファンのみなさんが、アイドル演劇という枠組みでは初めて観るような悲劇的な内容の舞台に唖然(あぜん)としていたのと、(初日だったので)カーテンコールのタイミングを客席側も取り損ねてしまったのかと。真相はわかりませんが、拍手が起きなかったこと自体は事実で、終演後のキャストはみんなが戸惑っていましたね。“お芝居が面白くなかったから拍手がなかったのかな?”って不安になっていました。

──その後もTRUMPは上演が続いて、今年で15年目を迎えました。いつごろからご自身のライフワーク的存在になってきたのでしょうか。

 2017年の『グランギニョル』あたりですね。それまでも単発的に吸血種たちの物語を描いてきてはいたんですが、明確にシリーズものとして続けていこうという認識は薄かったんです。当時のマネージャーが企画を通してくれて、TRUMPシリーズの新作として『グランギニョル』を上演したのですが、その後のシリーズを継続していく足掛かりとなりました。

 その次の『マリーゴールド』(’18年)はシリーズ初の本格ミュージカルで、『グランギニョル』に続いて反響が大きく、商業的にも継続して上演できる見込みが立ってきたので、TRUMPシリーズを人生をかけて描き続け、すでに構想だけはある最終作までなんとか継続させていきたいと考えています。

ピースビット2017年公演『グランギニョル』
2018年上演のミュージカル『マリーゴールド』

 演劇をやっている身として生と死、われわれはどこから来てどこへ行くのか、というのはどんな作品でも問うていくべきテーマだと僕は考えています。何千年もの時代を行き来するTRUMPシリーズは、この主題を考えるのにぴったりになりましたね。

末満健一さん 撮影/有馬貴子

《PROFILE》
末満健一(すえみつ・けんいち) 1976年、大阪府生まれ。脚本家・演出家・俳優。’96年、惑星ピスタチオに入団。2002年に演劇ユニット・ピースピットを創設。’09年に「TRUMPシリーズ」第1作の『TRUMP』を上演、以後TRUMPシリーズは最新作『LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-』まで13作を上演する。’16年からは「刀ステ」こと舞台『刀剣乱舞』シリーズの脚本・演出を担当し、舞台『鬼滅の刃』を’20年の初演から’22年の『其ノ参 無限夢列車』まで演出を手がける。

『LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-』

作・演出/末満健一 音楽/和田俊輔
出演:内田未来/浜浦彩乃/大森未来衣/斎藤瑠希/白鳥光夏/河本彩伽/北御門亜美/齋藤千夏/加藤弘美/真弓/アイザワアイ/岡本美歌/川崎愛香里/中原櫻乃/黒木柚衣奈/八尋雪綺/能勢うらら  <スウィング>金井菜々/渡辺菜花

【東京公演】2023年4月15日(土)〜23 日(日)/サンシャイン劇場
【大阪公演】2023年4月28日(金)〜5月3日(水・祝)/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ