『火の鳥』都市伝説のラストシーンに憧れた

──シリーズの最終作の構想も、すでに胸に秘めていらっしゃるとか。

 最終作の脚本だけ書き上げておいて、僕の死後に上演してもらおうかなとも思ったんですが、さすがに周囲から「それはやめてくれ」と言われたので、生きているうちに完結させるほうに心が傾いています(笑)。

 手塚治虫さんの『火の鳥』の最終話って、手塚さん本人が『火の鳥』現代編を描いている途中で机の上に突っ伏して亡くなっている1コマで終わるっていう噂があって、それが本当に正しい情報かどうかはさておき、その幕引きってめちゃくちゃカッコいいなって思ったんですね。『火の鳥』は古代と未来を行き来してだんだん現代に近づいていって、現代の最終話が手塚さんの死で終わるという都市伝説が面白くて、『TRUMP』も気がついたら『火の鳥』のような広い時間軸を持つ作品になりました。

──やはり少年時代に初めて読んだ手塚さんの作品も影響しているようですね。

 人生のうちで何度か、手塚さんの作品を無性に読みたくなる時期があるんですよ。少年時代の僕もそうでした。つい最近も『火の鳥』を読み返したばかりです。

 他には桜玉吉さんの作品が大好きで、大きな影響を受けています。玉吉さんの初期作『しあわせのかたち』なんて最初はゲームのパロディマンガだったのに、どんどん作風が変わってご自身のエッセイマンガになり、その後の『幽玄漫玉日記』では鬱との闘病が描かれるようになる。そんな玉吉さんの心象風景にも影響されて、若いころの僕の人生観・死生観ができたように思います。

 もちろん『TRUMP』を書き始めたころから、話題性だけでなくクオリティの高い舞台をお届けして、かつ笑えるところでは笑ってもらって、悲劇では心を震わせてもらって、誰かの特別な作品になれるように作品づくりに取り組んできました。そこに僕なりの死生観や、ゴシック・ファンタジーのパッケージで見た目にも楽しんでもらおうと、試行錯誤を続けながら今に至ります。僕に残された時間も永遠ではありませんが、『TRUMP』についてきてくださっているファンのみなさんためにも、頭も身体もしっかり働くうちに、完結させる責任は果たしたいですね。

(取材・文/大宮高史)

末満健一さん 撮影/有馬貴子

《PROFILE》
末満健一(すえみつ・けんいち) 1976年、大阪府生まれ。脚本家・演出家・俳優。’96年、惑星ピスタチオに入団。2002年に演劇ユニット・ピースピットを創設。’09年に「TRUMPシリーズ」第1作の『TRUMP』を上演、以後TRUMPシリーズは最新作『LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-』まで13作を上演する。’16年からは「刀ステ」こと舞台『刀剣乱舞』シリーズの脚本・演出を担当し、舞台『鬼滅の刃』を’20年の初演から’22年の『其ノ参 無限夢列車』まで演出を手がける。

『LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-』

作・演出/末満健一 音楽/和田俊輔
出演:内田未来/浜浦彩乃/大森未来衣/斎藤瑠希/白鳥光夏/河本彩伽/北御門亜美/齋藤千夏/加藤弘美/真弓/アイザワアイ/岡本美歌/川崎愛香里/中原櫻乃/黒木柚衣奈/八尋雪綺/能勢うらら  <スウィング>金井菜々/渡辺菜花

【東京公演】2023年4月15日(土)〜23 日(日)/サンシャイン劇場
【大阪公演】2023年4月28日(金)〜5月3日(水・祝)/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ