発達障がいのある役を演じて知った「気づき」

──屋内透を演じるにあたって、撮影前に監督と発達障がいのある方々にお話を伺ったり、医療監修者の方にアドバイスを受けたりして、入念な役作りをされたそうですね。その中でどういうことを大切にして演じられましたか?

 実際にお会いするまでは、いろいろと質問も考えて根掘り葉掘り聞こうと思っていたんですけど、お話をしているうちに「自分が今一番知りたいのは、何気ない会話からその方のナチュラルな状態を知ることだな」と思ったんです。なので途中からは、「休みの日は何をしているんですか?」「好きなものはなんですか?」といった何気ない会話をして、リラックスしているときのちょっとした手の仕草や目線の動きを見て「こういうときはそういう動きをされるんだな」というところからヒントを得て、透という人物を作っていきました。

──いろいろな方に会ってお話を聞いたうえで、実際に透を演じてみて何か気づきはありましたか。

 演じてみることで、コミュニケーションを取ることの難しさを感じました。思ったことを正直に言葉にしてしまって、それが時に人を傷つけてしまうこともあるし、喜ばせることもできる。透は正直な思いのまま言葉を話すんですけど、その分自分にかけられる言葉もストレートに伝わってこないと理解ができないこともあり、それによって春ちゃんや周りの人とちょっとギクシャクする瞬間があるんです。なので、そこをどうやって表現しようかというのはすごく難しかったですね。

 ただ脚本に書かれていることを淡々と言うのではなく、透のモヤモヤしている気持ちを言葉だけではなくて、表情や身体の動きで表現したいなと思っていました。

宮沢氷魚さん 撮影/junko

──透を演じるにあたって、特に心がけた部分はありますか?

 作中で透がちょっと理解に苦しんだりモヤモヤしていたりするときに、手の指が激しく動いたり、目線がキョロキョロしたりするんですけど、それは透なりの最大の気遣いなんですよ。

「理解したいけどわからない、どうしよう」と思った結果、「もっとはっきり言ってくれないとわからない」という言葉につながるのですが、手や指、目線の動作というワンクッションを置くだけで、彼なりの優しさみたいなことを表現できればと思いました。

宮沢氷魚さん 撮影/junko

──今おっしゃったように、透の目線がキョロキョロしたり、手指を激しく動かしたりしたときは、言葉でうまく伝えられないもどかしさのようなものが、見ているこちらにも伝わってきました。

 そう言っていただけてうれしいです。手の動きはクランクインする前日くらいに「やろう」って決めたんですよ。透の心情を表現するにあたり、何か彼の「クセ」があったほうがいいなと思ったんです。

 気持ちに焦りや変化が出てくると、その気持ちを体現する特性を持つ方々もいて。透は絵を描く人だから、きっと何かを感じ取るときに「手」を一番使うんだろうなと思いました。なので、団地の壁に絵を描くシーンでは手を使って光を包み込むようにして繊細に動かしているのですが、彼の内にある思いが一番伝わるのは手や目の動きだろうなと考えたんです。

 だからと言って、やりすぎるとそこばかりに目がいってしまうので、そこのニュアンスをどこまでやるのか、どういう風に表現するのかというところは難しくもありました。透の感情に合わせてどんな動きをつけるのかという点は意識して気をつけていたところです。

宮沢氷魚さん 撮影/junko

──透は自分のルールを持ちながらも、相手を遮断することはしない人だなと感じましたが、役作りの上でそういう意識は持っていましたか?

 透は説明することは上手ではないけど、何かを伝えたいときには言葉をバーッと使って誰かにぶつけることができるという個性を持っているから、興味を持ったものにすごい熱量を注ぐし、好きな人には自分のそばにいてほしいと思う人なので、シャッターを閉じるタイプの人ではないんだろうなということは最初から思っていました。

 一言で「発達障がい」と言っても、本当にいろいろな特性があるんです。人とコミュニケーションを取るのが嫌な人もいれば、誰かと会話することや人がたくさんいる場所が好きという人もいます。透の場合は、絵を描くことに対するパッションや熱量がすごくあって、作中でペットボトルの話をするときも「このよさを誰かに伝えたい、説明したい」という思いが強く出ているので、そこのシーンもぜひ注目してほしいです。