水原は広告代理店で働く主人公の同僚のひとり。メインの人物とはいえず、登場するのも全10巻のうち1巻と少しだけ。それなのになぜ忘れられないかといえば、彼女が途中で自ら命を絶ってしまったからです。

 29歳という若さでグラフィックデザイナーとして活躍する水原は優秀で決断力があり、ユーモアも兼ね備えている。働く女性からしてみれば、まさに憧れ。だけど、家では一向に働こうとしない恋人の存在に悩まされていました。

 それでも彼女にとっては安定剤のような存在だった恋人でしたが、のちに浮気が発覚。さらには探偵を雇い、家を出て行った彼の素性を調べると、自分に語っていたことが何もかもウソだったとわかります。すると途端に足元の崖が崩れ、そのまま底が見えない深い場所へ呑まれていくように水原は死に向かっていきました。その様子が、経験したこともないのになぜかとても生々しく感じられたのです。

 何より恐ろしいのは、水原が苦しんでいたことを私たちはマンガで読んでいるから知っているけれど、実際に彼女のそばにいたら気づかないだろうなという確信があること。だって、水原は死の直前まで会社では笑顔を保っていたから。こうやって誰も気づくことなく失われていく命がいくつもあるということをそのとき実感しました

『かしましめし』は“共食”に何の可能性を見出す?

 同じくおかざきさんのマンガが原作となっているドラマ『かしましめし』の3人も、自ら命を絶った同級生の葬儀場で再会を果たします。そこで前田さん演じる主人公の千春は、もともと恋人同士だった故人が塩野さん演じるゲイの英治とも付き合っていた過去があることを知ります。そのとき、千春はこんなことを思うのです。

「古い建物がなくなって新しいビルができると、あれ? ここには前、何があったっけ? って記憶が混乱する。彼はそういう人だったっけ? 私は何を見てたんだろう」