私たちはみんな忙しなく生きる日々の中で、いろんなものを見過ごしてしまいます。ときとして、誰かの死の兆候でさえも。それぞれの人生があるから、仕方ないところもあるのかもしれません。ただでさえ、動物の一種である人間は本能として弱みを隠すのが得意なのだから。だけど、仕方ないと断言してしまうにはあまりに悲しい

 そこで、人々が生き延びる術として“共食”に可能性を見出したのが本作だと思います

 上記の再会をきっかけにみんなで集まってご飯を食べるようになり、やがて一緒に暮らし始める3人。千春は憧れの会社に就職するも、上司からのパワハラにより退職。成海さん演じるナカムラは恋人から突然婚約破棄され、英治は会社でデザイナーから営業に回された挙句、恋人とも音信不通と、それぞれいろんなものを抱えています。だけど、相手から無理に悩みを引き出して、共感を示したり、アドバイスしたりするわけじゃありません。

 ただ、一緒にご飯を食べる。その中で悲しかったことも、うれしかったことも話したくなったら話せばいい。聞くほうも安易に否定も肯定もしない。そういう千春たちのスタンスを多くの人は望んでいるのではないでしょうか

さまざまな違いが溶け合う食事の時間を描いたテレ東のドラマ

 性別、年齢、出自、性的指向、価値観。近年、テレ東ではそれらの違いを超え、人と人が食でつながるドラマが多数放送されています

 例えば、今年1月期放送の『今夜すきやきだよ』では、蓮佛美沙子さん演じる家事が苦手な恋愛体質のあいこと、トリンドル玲奈さん演じる家事が得意なアロマンティック(他人に恋愛感情を持たない)のともこによる恋でも友情でもない共同生活を描きました。

 一方、西島秀俊さんと内野聖陽さん主演で、ゲイカップル・シロさんとケンジの日常を描き、人気を博したのが2019年4月期放送の『きのう何食べた?』。どちらの生活にも必ず設けられていたのが、食事の時間です

 あいことともこはもちろん、属性にこそ共通点は多いけれど、真逆の性格をしているシロさんとケンジ。だから、すべてをわかり合うことなんてできません。それは、どんな関係の人たちであれ同じ。

 だけど、一緒にご飯を食べているときは境界線が曖昧(あいまい)になって、そこにいる人全員が溶け合えるような気がします。ああ、私たちはどんなときも生きるために食べる同じ生き物なんだなぁと思える。そんな愛おしい瞬間が丁寧に描かれたドラマ『かしましめし』。私の今期イチのおすすめです

(文・苫とり子/編集・FM中西)