音楽の新たな側面を提示し続けるKing gnu

 音楽とは聴くものである、という常識を斬新な表現方法で覆(くつがえ)してみせたKing Gnuの力は、もはやひとところに留まらない。舞台を通して、どこまでもキャパシティを抱えられる空間へと広がっていく。「観る」「観られる」という、演劇において基本となる構図の美しさを改めて再確認させられると同時に、そこから生まれるエネルギーは、まっすぐな言葉とともに人々を苦悩の淵(ふち)から救い上げる

 観劇と音楽とで得られた体験というのは別物のようでありながら、心の奥深くに響いてくるものは等しく大きい。音楽に必要なのは耳だけではない。五感すべてを使って、ときには頭の中に具体的な像を思い浮かべながら、自分の人生を思い返し聴くのが音楽という無形の芸術だ。King Gnuはそんな音楽に無限の可能性を見出し、表現することによって、音楽の新たな側面を提示し続けてくれる。

 限定された域を越え、私たちの心にまで届くKing Gnuの楽曲たち。「観る」音楽に触れ、感じられた今、私たちの生き方はどう変わっていくだろうか。人間らしい感情を抱き、人生という舞台を生きていってほしいという優しさを、彼らは身をもってして示してくれたのではないかと感じる

(文・安藤エヌ/編集・FM中西)