田邊教授が抱く、女子教育への野心

 田邊は以前、政府の役人らしき人物から「今度開校する御茶ノ水の高等女学校」の校長になればよいとすすめられていた。きっと引き受けるであろうその役職で、どんな「女子への教育」をするつもりか。彼の台詞を本音に翻訳してみる。「男に口答えをする女がこんなにいるのでは、女子の精神を叩き直さねば」。55話を見ていた全女性が、きっと同意してくれるはずだ。

 11週の田邊を見ていて思ったのは、出世する男ってこういうヤツだよなーということだった。万太郎が中心となって作る植物学会誌について、「水準に達していれば、認める。そうでなければ、1冊残らず燃やさせる。無論、金も出さない」と言い切る。刷り上がり、よい出来だと知るや、「私が雑誌を思いついたからこそ、こうして形になったわけだ」と堂々と言う。

 思いついたのは万太郎だとみんな知っているから、微妙な空気になる。すると「学会誌にしようと言ったのは私だろう」。万太郎が「そのとおりです」と答えると、「私が雑誌作りを許したおかげで、こうして見事、作ることができたじゃないか」と肩を叩く。「私が雑誌を思いついた」はウソだが、そこから微妙に修正して、最後は万太郎から「ほんまにありがとうございます」という言葉を引き出す。田邊の剛腕さが、全員の印象に残る。こういう図々しさが出世街道の必須アイテムで、この人はそのうち、雑誌を思いついたのは自分だと本当に信じるようになるだろう。

『らんまん』で東大教授・田邊彰久を演じる要潤 撮影/高梨俊浩

 田邊って社長になるかは別として、専務くらいはなるだろうなー。そんなふうに私が思ったのは、長かった会社員生活でかなりのサンプルを得たから。田邊はすでに政治力がものをいう世界の住人だろう。そちらにはそちらで予見できないことが待っているに違いないから最後の最後はわからない。だけど、かなりの線まではいくだろう。だから彼のパワーがあれば、寿恵子や弥江、クララの真っ当さなど平気で踏みにじる「女子教育」が実現してしまう。そう想像できて、無念さを先取りさえしてしまう私だ。