田邊と互角に渡り合う万太郎。その一方で徳永助教授は…
ところで、万太郎が五分の戦いをしていると書いた。田邊との交渉をうまくやってのけていたのだ。研究室にあった未分類の標本を4か月で整理し、名前のわからないもの、つまり新種かもしれないものをロシアに送る。そこに自分が土佐から持ってきた標本も加える。その許可を得たのだ。そこで万太郎、田邊をこう定義していた。「核心はただひとつ。教授に利があるかどうか」。田邊も「exactly right」と認め、「君と私は似ている」と言っていた。
学会誌が完成し、そこに自分の名前と植物画が掲載されることが、万太郎にとっての「利」。田邊は出来のよい雑誌を「自分由来」だと周囲に喧伝することが「利」。だから万太郎は、「雑誌を思いついた」ことは田邊に譲った──。ここまでのところは五分と五分だが、かなりきわどい戦いだ。最後は「権力」の有無で勝負が決まる。そんな気がするのも、長かった会社員生活ゆえだ。
心配なのが、助教授の徳永(田中哲司)だ。万太郎の標本をロシアに送るのはおかしいと騒ぎ立てながら、「出来が悪ければ燃やす」という田邊の言葉に動揺し、「学生と年の変わらぬ者に、すべてを負わせるのはいささか」とつい口にする。「矛盾のかたまりだな、君は」という田邊の言葉はそのとおりで、こういう根は善人なのに出世も諦められない人がいちばん苦しい。
などと思うのも……と、繰り返しになるのでやめる。『らんまん』11週は「組織と人間」の授業みたいだった。あー、12週、万太郎&寿恵子の結婚が待ち遠しい。
《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。