「ムショ割」や「出所割」独特なネーミングのセールを銘打つ
その一方で、“悪党の店”を逆手に取った試みも積極的に行っている。その代表例が、「悪人のための新生活応援フェア」と銘打った「ムショ割」や「出所割」だ。「ムショ割」は、刑務所、拘置所などに収監されている本人もしくは、差し入れとして送る人が対象。
「出所割」はその名のとおり、刑務所、拘置所などから出所して3か月以内の人もしくは、知人や友人の出所祝いを贈りたい人が対象だ。いずれも5%の割引クーポンが付与される。
「実際に該当者が使っているかどうかまではわからないのですが、クーポンを利用される方はけっこういらっしゃいます。普通のセールをやっても面白くないし、インパクトがない。
これなら『BIRTHJAPAN』で買った、ということも覚えてもらえますし。ちなみに、『店長逮捕18周年反省大セール』なども実施しています」
『悪党の店 BIRTHJAPAN』がSNSで話題になることが多いのも納得だ。石川さん自身は、ネタにされても宣伝になるし、ツイートした人が購入しなくても、それを見た誰かがサイトに興味を持ってくれればいいと割り切っている。
仁義を尽くすのが『BIRTH JAPAN』流の本当の悪党
しかし、一方的な悪口を言われたときは別で、SNS上でガツンと言い返すこともある。昨年も、『悪党の店 BIRTHJAPAN』のとある試みが、SNSで注目を集めた。それは、「ウクライナ支援企画」だった。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって間もないころ、オリジナルデザインのチャリティTシャツを作り、1枚3500円で販売。うち1000円を、日本赤十字社を通じてウクライナの人道危機救援金に寄付することにしたのだ。
「侵攻のニュースを見て、この戦争を見て見ぬふりをしてはだめだという気持ちがすごくありました。他国に攻め入って命や自由を奪っていい理由になどなるわけがないし、何らかの支援をすべきだと思いました。
また、ちょうどウクライナ人デザイナーと手を組んで仕事を始める矢先だったということもあり、彼とのメールのやりとりで最後に使っている『Слава Україні(ウクライナに栄光あれ)』というフレーズをTシャツにデザインしました。
思った以上に反響があり、嬉しかったです。“やらない善よりやる偽善”で、自分ができることをするまでです」
現実社会では、ヤクザやヤンキーは疎まれる存在であるにもかかわらず、彼らが登場するマンガやドラマ、映画は根強い人気があり、そうした人々が着用するファッションアイテムを扱う『悪党の店 BIRTHJAPAN』は順調な売上を見せているのはなぜなのだろうか?
「日常生活ではいろんな制約があって、言いたいことを言えない人はたくさんいます。ヤンキーには、“こんなことをしたらダメ”ということを気にせず、自分の気持ちに正直に、自由に、何者にも縛られない強さがあるように見えるから、魅力的に感じられるのではないでしょうか。
また、ファッションについても、もともと自分に自信があればあんな格好をしなくてもいいと思うんですけど、生きづらさを感じて不良になってしまった人たちが何かをしようとして、自信や勇気が欲しいと思ったときに、背中を押してあげられるようなファッションを作っていきたい、というのはすごく思いますね」
今後もブレることなく“悪党の店”を貫いていく石川さんにはふたつの目標がある。ひとつは、『悪党の店 BIRTHJAPAN』に来れば、日本だけでなく、世界中の不良ファッションが手に入る店にすること。もうひとつは、日本の不良ファッションを世界に発信するということだ。
「アメリカならギャング、イタリアならマフィア、メキシコならカルテルなど、うちのサイトに来ればこうした不良ファッションの文化がひと目でわかって、それが買えるようにしたいですね。以前から、海外からの購入はあったのですが、円安ということもありますし、もっと販売していけるといいなと思っています」
新潟・南魚沼から世界へ、どこまでも独自のスタイルを貫き続ける。
(取材・文/吉川明子、編集/本間美帆)
【PROFILE】
石川智之(いしかわ・ともゆき) ◎新潟県出身。高校を中退後、大阪~埼玉を渡り歩きながら3年間の逃亡生活を経て、不良ファッションに特化したアパレルショップ『BIRTH JAPAN』を設立。その後、バラエティー番組『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)『阿佐ヶ谷アパートメント』(NHK)などの多数のメディアに取り上げられ、その独特な店構えと自身のこれまでの生き方が話題を呼び、支持されている。