今の若手作品を見て感じることとは

──紫綬褒章も受章されましたが、次なる目標はありますか?

紫綬褒章はね、嬉しいけれどいただいたことで困っちゃった(笑)。ますます何をやっている人かわからなくなったよね。でもホント嬉しかったです。なんだかんだ言って人間は自分が満足できればよいというふうにはできてないものね。世間や人からの評価はどんな形でも嬉しいです

──しりあがり先生は、謙虚ですよね。

僕らの周りはみんな偉ぶったりしないですよね。“三無主義(無気力・無関心・無責任)”とか“しらけ世代”なんて言われたけど、やっぱり学生運動の後の世代というのが大きい。価値を否定しておいて自分が偉ぶるなんて矛盾するものね。でも世の中にはエラソーにするのが大切みたいな仕事もあるんだよね(笑)」

──大学で教鞭を執(と)られていますが、若い学生の作品を見て何を感じますか?

「正直言って、年とってたくさん見てきたせいだと思うんだけど、彼らの作品の新しさがちゃんと見えないんだよね……。それは自分にとっての大問題だと思う。自分にとっての些細な問題が若い当事者にとって重大だということが頭でわかっててもちゃんと理解できない。あと、漫画の技術は若い人スゴイです! 自分の大学時代より100倍マジメだし(笑)」

──では、新しい文化はどのようにしたら生まれてきますか?

文化というものは、どうしても時代の流れに影響されるよね。大きな新しいものが出てくるときは、地震のようにプレートが衝突する感じに似ている。若い人と旧時代の人たちとのひずみからカウンターカルチャーも生まれてきた。でもだんだん、そういう文化が生まれるための地震って小さくなってきている。日本で言ったら戦後の余震が続いてる感じかな? でも次は国際的な大きなひずみから大きな地震が起こるかもしれない。あとはネットやAIの進化の影響が内容にどう反映していくか?

取材陣を温かく迎えてくださったしりあがり先生。終始、和やかな雰囲気でした 撮影/矢島泰輔

別に無理して元気じゃなくていい

──50代や60代という年代を楽しく過ごすには、どうすればよいと思いますか?

別に無理に元気を出さなくてもいいって思うんだよね。だって元気を出さなきゃいけないって思ったら、つらいよね。僕は今65歳ですけれど、親父は59歳で亡くなっている。そう思うと、いつまで生きられるのかわからない。長く見積もっても人の役に立てるのは、あと10年持たないだろうなって思うんです。今はあの世なんて信じられなくて個人の命がいちばん大切な時代だから、それが失われる『死』は敗北でしかない。でも全ての人が負ける人生なんて変だよね。それぞれが納得できる自分という物語の結末を考えられたらいいね

──健康は、大きな問題かもしれないですね……。

この年齢になると経済から健康まで個人差が広がるから、難しいことだけれど人と比べないことが重要だよね。上を見ても下を見てもキリがないから。でもほら、さっきも言ったけれど、人生なんて観光旅行みたいなものだからね。僕は漫画家体験ツアーもやったし、子育ての手伝いもちょっとした。還暦もみんなにお祝いしてもらったし、おいしいラーメンもカレーもいっぱい食べたからね。観光旅行としては最高だったって思う。あと10年か20年かはわからないけれど、やりたいことはまだいっぱいあるね

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 淡々とした口調ながら、さらりと普通ではないことをやってのけてきたという印象のしりあがり寿先生。人生は観光旅行という名のもと、みなさんも気を楽にして好きなことを見つけてみてください。

(取材・文/池守りぜね、編集/小新井知子)

《PROFILE》
しりあがり寿(しりあがり・ことぶき)
1958年静岡市生まれ。1981年多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後、キリンビール株式会社に入社し、パッケージデザイン、広告宣伝等を担当。1985年単行本『エレキな春』で漫画家としてデビュー。2000年『時事おやじ2000』(アスペクト)と『ゆるゆるオヤジ』(文藝春秋)で文藝春秋漫画賞、2001年『弥次喜多 in DEEP』(エンターブレイン)で手塚治虫文化賞優秀賞を受賞。2002年から朝日新聞・夕刊で『地球防衛家のヒトビト』を連載。ギャグから社会派まで幅広いジャンルの漫画作品を手がける一方、映像、現代アートなど多方面で活躍。2014年、紫綬褒章受章。