服従と親和を深める「服従訓練」
中川巡査部長がペアを組むのは、シェパードのカーラ号(メス)です。日ごろの訓練の一部を見せてもらいました。
まず初めに行われたのは警察犬の基本となる訓練の「服従訓練」です。
カーラ号は、ハンドラーの中川巡査部長の傍に立ち、顔を見つめます。「伏せ」「座れ」「立って」などの指示に合わせて従順に反応し、素早く姿勢を変えます。
ハンドラーの左側に付いて行進するよう訓練されている警察犬。もちろんカーラ号も、ハンドラーの中川さんにピッタリ付き、歩調を合わせます。中川さんが小走りをすれば、カーラ号もそのスピードに合わせて小走りに。ターンをすれば、カーラ号もくるりと方向を変えます。ハンドラーがリードを持たなくても、警察犬は離れず指示に従います。
中川さんはカーラ号に「座れ」「待て」の指示を出して離れます。座ったまま待つカーラ号。中川さんが離れた位置から「伏せ」と言えば、カーラ号は的確に反応します。「よし来い」の合図で、中川さんの左側に戻ります。ボールを投げたときは、「持って来い」の言葉に従って取りに走り、ハンドラーの元へ運びます。
「服従訓練では、警察犬はハンドラーの左側に付いて、指示を聞き漏らさないよう顔のあたりを注視して歩きます。訓練を通して、犬の服従の習性を養い、人と犬の親和を深めていきます」(五十嵐警部)
中川さんの指示に従い素早く動きながら、イキイキとした表情を見せるカーラ号。ハンドラーとの活動を喜び、訓練を楽しんでいるように見て取れました。
「臭気選別」など鼻を使った訓練を重ねる
次に見せてもらったのは、嗅覚を活用した「臭気選別訓練」です。警察犬に布のにおいを嗅がせて記憶させ、複数の布の中から同じにおいを見つける訓練です。
臭気選別の目的は、遺留品や後日判明した容疑者の臭気の“異同識別”を行い、結びつきを明らかにすることです。事前に、1から5までの番号の書かれた選別台を用意し、異なるにおいをつけた5枚の布を置きます。台から少し離れたところで、ハンドラーが1枚の布を犬の鼻近くに運び、においを嗅がせます。ハンドラーの指示で犬が台に向かい、同じにおいの布を嗅ぎ当てて持ち帰ります。
カーラ号の臭気選別訓練が始まりました。ハンドラーの中川さんは、カーラ号を座らせ、ピンセットではさんだ布を鼻先に差し出し、においを嗅がせています。
「探せ!」の号令で、カーラ号は台へ。置かれた布を素早く嗅ぎ、4番の布をパクリ。中川さんの元へ持ち帰りました。
カーラ号が持ち帰った布は……正解! カーラ号はたっぷり褒めてもらいました。
このほか、人間の足跡臭を追跡する「足跡追及訓練」や、薬物や銃器を発見することを目的とした「薬物・銃器捜索訓練」、所持品のにおいをもとに浮遊臭気によって行方不明者を発見することを目的とした「行方不明者捜索訓練」など、警察犬の訓練はまだまだあります。
「訓練では、ハンドラーは愛情を持って臨み、犬に楽しみや喜びを持たせるように心がけています。褒める、叱るタイミングを外さず、飽きさせない工夫をしながら訓練を繰り返しています」(五十嵐警部)