奏劇vol.3 メトロノーム・デュエット

『キネマの神様』『レッド・クリフ』など数々の映画音楽を手がけてきた作曲家・岩代太郎が、演劇と音楽による新たな舞台芸術を目指し、2018年に初上演した「奏劇」シリーズ。言葉では伝えきれないことを、ミュージカルやオペラのように歌で表すのではなく、あくまで物語をベースに、演じるように奏で、奏でるように演じる新しいカタチの朗読劇の第3作。チェロ、アコーディオン、そしてピアノのトリオで奏でられる音色と俳優が紡ぐ言葉がひとつになる物語。

 

【ストーリー】
国立音楽大学の教授である山脇(高橋克実)は、たった一人で学生のメンタルケアを担当している真中(富田靖子)のサポート役として、学生の相談を聞いている。今、聞いているのは学生の林(浜中文一)の悩みだ。彼の前には黒いメトロノームが置かれ、山脇のほうには白いメトロノームが置いてある。メトロノームは古く、動いてさえいないが、いわくあり気な雰囲気を醸しだしていた。
林は山脇に相談事をしながら眠ってしまったらしく、ふと目覚めた。礼を言って教授の部屋を出た林だが、自分が何の話を山脇にしていたのかを具体的に覚えていなかった。別の日、チューバ奏者を目指す陽気な学生の望月(寺西拓人)にメトロノームについて聞かれた山脇は、このメトロノームの歴史を語って聞かせる。そして革新を持ってあることを望月にすると、何を言っても望月はゲラゲラと笑い、それを見た山脇は満足そうにほくそ笑んでいる。山脇には今でも思いを寄せている初恋の相手、村田美穂(斉藤由貴)に数十年ぶりに手紙を書いていた。その村田から返信があったのだが……。

声の仕事は、ある意味残酷だといえる

──斉藤さんは、朗読劇はお好きですか?

 「はい。(台詞を)覚えなくていいし(笑)。それは冗談ですけど、声のお仕事は好きです」

──ドキュメンタリー番組のナレーションや朗読など、声のお仕事も数多いですが、声についてのこだわりや大切にしていることは?

 「俳優という仕事をしておきながら、という感じですけど、“創意工夫してこんな表現なのよ、こんなすごい熱量で芝居やってるのよ”ということよりも、どちらかというと本人がまったく意識していないところでにじみ出る何かとか、持っている本人の素材感、素質みたいなもののほうが、たぶん説得力はあるのかなと思っていて。

 それはある意味とても残酷ですけど、誤解を恐れずに言ってしまえば、やっぱり“持たざる者は持たない”と思うんです。本人がもともと持ち合わせているもので勝負すると考えたときに、私に声のお仕事がたくさんいただけたのも、たぶんそこらへんに関係するのかなと思うんですけど」

──NHK BSのターシャ・テューダー(アメリカの絵本作家・園芸家)の番組のナレーションも、斉藤さんの声が番組にぴったりで大好きです。

 「ありがとうございます。素敵な番組でしたね。あれもすごく好きなお仕事でした

──斉藤さんにとって、舞台に立つこと、演劇はどういう場ですか?

 「ひと言で言うなら、嫌な仕事(笑)。舞台って、基本的に嫌な仕事なんですよ」

──もう少し詳しくご説明いただけると(笑)。

 「ひとつの決まった舞台上の枠の中で、ありのままの自分の姿でありのままの声のボリュームでそれを届けるために、全身を使わなくちゃいけなくて。間合いのちょっとした気の緩みの失敗であるとか、あるいは毎日同じことをやるという緊張感とか、体調やメンタルの管理とか、自己嫌悪と向き合うとか、鍛錬をしなければいけない。

 舞台って、劣等感や根本的な弱さとか、そういうものと否が応でも向き合わなければいけない仕事だと思うんです。これが映画だったら、照明さんがいろいろカバーしてくれたり、あるいはフレームで切り取ってくれたり、カットを後で切り返してくれたり、カバーして整えてくれる。でも、舞台はほとんどそれがない。だから、カッコつけていられないわけですよね。本当に必死になって、嘘をつかずにエネルギーを放出しないと観ている側には届かない

 劇場の大きさとかによってはマイクをつけたり、舞台の照明さんも素晴らしい光をあててくれますし、素晴らしいセットの転換がありますけど、最終的にはやっぱり、本人の力量とセンスと体調、筋力、胆力、発声というフィジカルな強さも絶対的に必要なので。そこに普段の自分の生き方がにじみ出てきちゃうわけですよね。だから、そういうものを総合してひと言で言うと、嫌な仕事(笑)」

斉藤由貴さん 撮影/松島豊

──(笑)でも、時々それをやることが必要なんですね?

 「もちろんそうです。絶対、必要なんです

後編に続きます

(取材・文/井ノ口裕子)


《PROFILE》
斉藤由貴(さいとう・ゆき)1966年9月10日生まれ。神奈川県出身。1984年、『少年マガジン』(講談社)第3回ミスマガジンでグランプリ受賞。同年、明星食品「青春という名のラーメン・胸騒ぎチャーシュー」のCMが話題を呼ぶ。‘85年2月、『卒業』で歌手デビュー。4月『スケバン刑事』で連続ドラマ初主演。12月公開の映画『雪の断章-情熱-』で映画初主演し、各映画賞の新人賞を受賞するなど、デビューから破竹の勢いで活躍。’86年、NHK連続テレビ小説『はね駒』のヒロインを演じ、’87年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』で初舞台を踏む。以降女優、歌手として幅広く活躍。近年の主な出演作に、映画『子供はわかってあげない』(’21年)、『最初の晩餐』(’19年)、ドラマ『Dr.チョコレート』(’23年)、『ギバーテイカー』(’23年)、『大奥「3代・徳川家光×万里小路有功 編」』(’23年)、舞台『良い子はみんなご褒美がもらえる』(’19年)、『ショーガール』(’18年)、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』(’16年)などがある。また、20代前半から、詩、小説、エッセイなどの著作も手がけ、書籍も多数出版。作詞家としてミュージカル『ローマの休日』に使用された楽曲の作詞を担当し、1998年度芸術祭賞受賞。他にもミュージカル『シンデレラストーリー』(2003年、2022年上演。作詞担当)、『十二夜』(2003年、2006年上演。作詞担当)などがある。

●公演情報
奏劇 vol.3 『メトロノーム・デュエット』
【原案/作曲】岩代太郎
【脚本・演出】山田能龍
【出演】高橋克実 浜中文一 寺西拓人 富田靖子 斉藤由貴
【演奏】新倉 瞳(チェロ) 桑山哲也(アコーディオン)岩代太郎(ピアノ)
【日程・会場】2023年7月26日(水)~8月2日(水)よみうり大手町ホール(読売新聞社ビル)

【公式サイト】https://tspnet.co.jp/sougeki-2023
【公式ハッシュタグ】#メトロノーム
ヘアメイク:冨永朋子 スタイリスト:石田純子(オフィス・ドゥーエ)
衣装協力:ワンピース/ロイヤルパーティーレーベル(カフカ Tel.03-6455-7600) ピアス/ウノアエレシルバーコレクション(ウノアエレ Tel.0120-009-488) リング/アビステ (Tel. 03-3401-7124) サンダル/ランバン コレクション(モーダ・クレアTel.︎ 03-3875-7050)