マヌルネコはペットとして飼えるの?

かわいい顔のマヌルネコだが、野生動物ということを忘れないで! 写真提供/那須どうぶつ王国

 まるでぬいぐるみのようなマヌルネコの姿を見て、「抱きしめてみたい!」「飼いたい!」と思う人もいるのではないでしょうか。ではマヌルネコをペットとして飼育することはできるのでしょうか?

 その答えは、「飼育できない」となります。

 マヌルネコはペット向けの動物ではなく、あくまで野生動物です。それも肉食動物であることから意外と獰猛(どうもう)で、那須どうぶつ王国では飼育員さんでさえマヌルネコの体に直接触れない「間接飼育」という方法でお世話をしているのです。トラやライオンと同じような扱い、と考えるとわかりやすいかもしれません。

 また、「マヌルネコの生息地は高地のため病原菌が少なく、感染症に弱いとされているので、そのあたりは注意深く飼育しています」と飼育員さん。特に子ネコは病原体に対する耐性が弱く、感染症で命を落とすことが少なくありません。動物園ですら感染症対策に気を遣い、頭を悩ませているという現状を考えると、一般家庭で感染症対策を行いながらマヌルネコを飼育することはほぼ不可能と言っても差し支えないでしょう。

 さらにマヌルネコをペットとして飼いたいという人が増えれば、ペット向けにマヌルネコを密猟する人が増加すると考えられます。密猟が増えれば野生のマヌルネコの数は減ってしまい、いずれ絶滅してしまうかもしれません。そう、実はマヌルネコをペットとして飼育すると、「飼いたい」と思うほど大好きなマヌルネコを絶滅の道へと進ませてしまう可能性を高めてしまうのです。

 マヌルネコはかつて国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの「NT」(近危急種)とされていましたが、これまで考えられていた以上に生息数が多いことが判明し、2020年の最新版リストでは1ランク安全な「LC」(低危険種)になりました。

 しかし、これまでお話ししてきたとおりマヌルネコは動きが速くないうえに、外敵から身を守る手段をほとんど持ちません。そのため生息地周辺では毛皮目的で密猟されたり、人間が飼育している犬に殺されたりすることが多いのだそうです。また農業や牧畜、鉱業の拡大によって生息地が減少し続けており、すぐに絶滅してしまう危険性は低いものの、年々その生息数は減少していると考えられています。

那須どうぶつ王国が作った「マヌルネコのうた」って?

 那須どうぶつ王国ではマヌルネコの特徴や生態を歌にした「マヌルネコのうた」をYouTubeで公開し、各種SNSで話題になりました。歌詞には《マヌルネコ 守りたい》とありますが、作った経緯や反響を担当者さんに聞いてみました。

マヌルネコが大好きなクリエイターの富永省吾さんからの熱烈なオファーがあり、プレゼンを聞いてマヌルネコの保全啓発について多くの方に認知されるきっかけになると確信し、制作しました。再生数は390万回を越え、多くの方が耳にしています。中毒性があり、リピートしている人も多いです

 確かに一度耳にしたら忘れられない“マヌルなリズム”とマヌルネコの魅力がたっぷり詰まった映像は、何度でもリピートしたくなりますね。

 最後に那須どうぶつ王国の飼育員さんから、マヌルネコに関するメッセージもいただきました。

マヌルネコは、もふもふの見た目と愛くるしい顔立ちでとても魅力的な動物ですが、野生ネコの1種です。近年では、生息地の減少などにより、年々個体数は減っています。ペットとして飼いたいと思ってしまうと、野生化での密猟や乱獲につながる可能性が出てきます。ペットとして飼うことはできませんが、動物園で実際に目にして、マヌルネコをはじめとする野生動物や環境問題にも興味を持っていただけると嬉しいです

(取材・文/三日月影狼)

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