マンガのような敗者復活劇
さて、ここからがまるでマンガのような実話です。
無事に正解することができて勝者席に移った私は、ずっとほかのチャレンジャーたちの結果に注目していました。前述のように、ここで敗退するのは15人。つまり、〇×クイズで間違えたチャレンジャーの数がそれを超えたら、敗者復活があるということ。
そのときの私の気持ちを正直に言えば、“森田さんに敗者復活してもらい、ふたりで決勝を戦いたい”という思いと、“森田さんがここで敗退したら、自分が優勝できる確率がグンと上がる”という思いが交錯する、複雑なものでした。
泥んこクイズが終了し、〇×の不正解者数は17人に決定! 森田さんが生き残る確率は17分の2! 敗者復活のルールは、単純明快、サドンデスの〇×クイズ。
敗者復活できるのが2人と決まった瞬間に、森田さんの目がギラリと光ったのをいまでも覚えています。それを見た私は確信しました。
あっ、間違いなく森田さんは敗者復活する!
どうしてそんなことをしたのかわかりません。でも、その確信を人に伝えたくなったのでしょう。私はすぐ横にいたチャレンジャーにささやきました。
「敗者の中にいる、あの森田っていう名札をつけた彼、見ていてください。絶対に敗者復活してきますから」
突然そんなことを聞かされた相手も、驚いたでしょうね。でも、敗者復活の〇×クイズが始まると、あれよ、あれよという間に正解を続けた森田さんは、本当に勝ち抜き。さらに驚かれました。
「どうしてわかったんですか?」
そう聞いてくる相手に私は答えました。
「彼はこんなところで負ける人間じゃないからです」
いやー、本当にマンガの登場人物みたいな会話です。でも、すべて実話です。
ウルトラクイズという人生で初めての特殊な環境で、もしかしたら、私は1か月間、いわゆるゾーンに入っていたのかも……とさえ、思えてしまう出来事でした。
ちなみに、私がささやきかけたチャレンジャーとは、帰国後、第10回チャレンジャーの(同窓会的な)飲み会で何度も再会しました。
そのたびに「あのときは西沢さんの言葉にも驚いたし、その言葉どおりに敗者復活した森田さんにも驚きました。そして、そのふたりが決勝まで行って、もう一度驚きました」と言ってくださったものでした。
(文/西沢泰生、編集/本間美帆)
【PROFILE】 西沢泰生(にしざわ・やすお) 2012年、会社員時代に『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)で作家デビュー。現在は作家として独立。主な著書『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』(三笠書房)『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)他。趣味のクイズでは「アタック25」優勝、「第10回アメリカ横断ウルトラクイズ」準優勝など。