料亭の女将・みえはコミュニケーションの達人だった

 姉、つまり寿恵子の母・まつ(牧瀬里穂)から少し聞いている、借金はいくらだと聞く。500円ある、利子分だけでも貸してほしい、という寿恵子に、それではすぐにどん詰まりだと返す。そうなるまで何もしなかったのは寿恵子の甘さだと指摘し、何もしなかったわけではないと寿恵子が反論しかけると、「子育て? 内職? 大変でしたって? ちゃんちゃらおかしい。借金、膨(ふく)らんでるんじゃないのさ」とピシャリと言う。

 見ていてスッキリした。問題の本質は寿恵子ではないとわかっていても、「マッチ箱に紙を貼ってるだけじゃなー」と思っていたからだ。寿恵子の「内職だけじゃ追いつけないのわかってたのに、子どもたちから離れるのも怖くて」という台詞を聞き、寿恵子の考え方がわかったから、それもよかった。

 みえは寿恵子に100円を渡す。ただし、賃金の前渡しだという。うちにはそこらの芸者より稼ぐ仲居がいる、「あんたの愛嬌、度胸、気働き、ありったけやってみなさい」と発破をかける。途中、みえの夫も登場した。みえは敬語を使い、寿恵子の採用の決済を求める。その様子に「形式上の経営者は夫だが、実際の経営者はみえ」という構図も見えた。

 問題のありかを可視化し、解決に導く。上司とのコミュニケーションも自家薬籠中のもので、部下を励ます姿勢も真摯(しんし)さが伝わってくる。みえは令和の会社でも、できる管理職になれる。そう確信した。

『らんまん』で寿恵子の叔母・笠崎みえを演じる宮澤エマ 撮影/北村史成

 みえを演じる宮澤さん、『おちょやん』以上によかった。寿恵子との会話を立ち聞きしている仲居たちを叱ってみせ、ふふっと笑う。その余裕がカッコいい。仕事が終わった後、ひとり事務室(?)でお酒を飲んでいる。白いお銚子に白いおちょこ。少し足を投げ出し、物憂げな様子。疲れた様子が色っぽいし、「わかるぞ」と思わせる。そんないい女のみえ=宮澤さんなのだが、それにしても万太郎だ。