寿恵子に筋違いな嫉妬をする万太郎

 なんと、仲居の仕事を始めたという寿恵子の報告に、ぐずぐず文句を言うのだ。「料亭ゆうからには、いろんな客が来るがじゃろう」から始まり、高遠のようにさらわれたりしないかと言い、自分はもう母親だと言う寿恵子に「いや、そうゆうたら、それがええゆう男もおるじゃろう」。最後は「こんなに、こじゃんと可愛い寿恵ちゃん」と言う。「愛ゆえの可愛い嫉妬」で「ラブラブな2人」。そう見せたいのであろう制作意図は、理解した。が、率直な感想は以下だった。

 何言ってんだ、ぜーんぶ、おまえが働かないからなんだよ、叔母さんのコネですごい職場に入れたんだ、感謝しないでどうする、子どもすぎるぞ、万太郎。

『らんまん』で万太郎を演じる神木隆之介 撮影/高梨俊浩

 ふー。悪態をついたので、少し冷静に。この後、詳細は省くが万太郎の採集した菊が300円で買い上げられた。その菊について説明する万太郎は、「花と日本人論」を語った。創意工夫で唐から来た菊を改良した、花を愛する心があるからだと言って、こうまとめた。「みんなに花を愛でる思いがあれば、人の世に争いは起こらんき」。争いが続く2023年の夏に響くだけでなく、万太郎の真っ当さが伝わる台詞だった。偉大な植物学者への道を駆け上がる。その号砲でもあるかもしれない。

 そのうえで今の私の願いは、寿恵子が末長く仲居の仕事を続けることだ。「子ども、時々、真っ当」の万太郎のことだ、一直線に偉大な学者にはならないだろう。そして何より、「愛嬌と度胸と気働き」のある寿恵子なのだ。職場における才覚を見たい。みえも、そう願っているに違いない。


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。