新型コロナウイルスのパンデミック以降、人々の生活様式も変わりました。飲み会や帰省などが難しかった自粛期間は、人間関係の悩みを身近な人に打ち明ける機会も減ってしまったのではないでしょうか。
恋愛指南本も多数執筆されている、文筆家でAV監督の二村ヒトシさん。『fumufumu news』における2022年6月のインタビューでは、現代の女性たちが抱える問題について独自の見解を述べていただきました。(記事→「理想の相手と出会えない」「“心の穴”が満たされない」婚活女子の悩みを“モテ本”の著者にぶつけてみたら)
こちらの記事を読まれた読者の中から、「ぜひ二村さんに相談したい」というお申し出があり、対談が実現! 悩める30代独身女性のリアルをレポートします。
*今回のゲスト*
井上明日香さん(仮名)
関東地方在住の34歳。ウェブサイト制作関連会社のディレクター。10年ほどつきあい、結婚を考えていた2歳上の彼氏と5年前の大みそかにケンカ別れをしたのがきっかけで、マッチングアプリに登録。目ぼしい相手と出会えないまま現在に至る。
長くつきあった彼と別れ、13人と次々に
──二村さんに話を聞いてもらいたいというメールをくださった、明日香さん(仮名)です。
二村「今日はですね、何をしゃべっていただいても大丈夫です。お友だちに聞かれたら怒られるような不道徳な体験でも、男性に聞かれたらモテなくなりそうな不謹慎なご意見でも、話していただいて構いませんので(笑)」
明日香「はい、よろしくお願いします。年齢は、もうすぐ35歳になります。企業のウェブサイトを作るディレクターで、仕事以外にも絵を描いたり、趣味の範囲で友人が働く飲食店のフライヤーや販促物の制作を手伝ったりもしています。独身で、今は決まった彼氏はいません」
二村「マッチングアプリを使って婚活なさっていて、それについてお悩みがあるとか」
明日香「最初は5年前に当時の彼氏と別れたときに登録したんですが、何年かやって、いい出会いがなかったので一度やめたんです。でも最近、周りの友人が軒並みアプリで出会った相手と “アプリ婚” でゴールインしだしたので、焦りまして(笑)。それで、3か月前に再開しました」
二村「いい出会いがなかったというのは、どんな感じだったんですか」
明日香「相手が無職だったり、既婚者だったり二股だったとか……」
二村「女性の利用料がかからない出会い系のマッチングアプリだと、当たり前ですが、遊び目的の男性の活動も目立つんでしょうね」
明日香「はい。そう思って今年の夏からは、はっきり “結婚相手を見つけよう!” と謳(うた)っている婚活重視のアプリで有料会員になって、1か月ちょっとで、13人の男性と次々にオンラインでお見合いしたんです。こういうのは、数で勝負だって思って(笑)。ところが13人全員、まじめだったものの、最終的にピンとこなくて全滅しまして……ちょっと疲れてペースを落とし、今に至るって感じです」
──婚活アプリには、明日香さんがすてきだと思える人がいなかったのですか?
明日香「向こうも緊張しているのか、なかなか話が弾まないんですよね。“この人は気が合うかも。実際に会ってみよう” って思えた方も5人いたんですが、いざデートしてみると “あれ? なんか違うぞ?” って感じになって、2〜3回、ただ会って食事しただけで終わってしまって」
二村「アプリに登録される前は、どういう恋愛をされてたんですか?」
明日香「学生時代から10年近くつきあっていた彼氏がいたんです。半同棲みたいな感じで週末、お互いの家を行き来していて、最終的に2年ほど一緒に住みました。でも結局、籍を入れようって話にはならないまま、ケンカをして仲直りできずに別れてしまいました」
二村「20代後半でずっと交際して、いわゆる適齢期での結婚を考えていた相手と別れちゃった人が、次の恋の始め方がさっぱりわからなくなるって、よく聞く話ですね」
明日香「そうなんです。その人と長かったから合コンとかにも行ったことがなくて、どうやって男性と出会えばいいのか完全に忘れてしまっていて(笑)、アプリに頼ったんですよ。ずっと男性にドキドキするということがなかったので、ときめく恋愛ができたらいいなと期待していました」
二村「男性と会うこと自体は、いかがでしたか?」
明日香「最初のころは、自分が女として見られていると実感できて楽しんでいました。でも “年齢的に、次は結婚を考えられる人とちゃんとつきあいたいな” ってモードに切り替えると、一気にこちらの男性を見る目が厳しくなってしまうというか……。相手に少しでも、悪い意味で気になるところがあると、 “ああ、もういいや。次の人に行こう” って思ってしまうことがほとんどで」
マッチングアプリでの出会いは「諸刃の剣」
二村「今回、知り合いの独身女性にも、何人か事前に話を聞いたんですが、ようするに “婚活市場には、いい男も結婚に向いた男性も残ってない” って、みなさんがおっしゃる(笑)。ところが現実にはアプリで知り合って結婚して、幸せになってるカップルもいることはいる。そうすると、それは単に確率の問題なのか、それともそうじゃないのか……。明日香さんは出会った男性と実際に、つきあったりはされましたか?」
明日香「最初に始めた出会い系アプリで何人かと会って遊んで、しばらくして “ちょっと落ち着こう” みたいな感じで一応つきあうことにした人も2人いたんですが……。結局あまり進展せず、どちらも半年くらいでお別れしました」
二村「恋愛経験がまったくないってわけではないアラサー女性を楽しませてくれるような男性とも、アプリでは出会うことができる。でも、彼らが結婚について真剣に考え始めるタイミングでうまくマッチしないと、なかなか前に進まない。出会い系アプリでモテている男性は、なんらかの決定をすることが自分の可能性を狭めると感じちゃうのかもしれません。こちらも多くの男性の中から選べるぶん、向こうも多くの女性と会えているわけで、そこは諸刃の剣です。
以前ずっとつきあっていた彼と籍を入れなかった理由は何でしたか? 」
明日香「30歳が近づくにつれて、私のほうは結婚したくなってきたんですよ。でも、自分からは言い出す勇気がなくて。“相手が、いつか言ってくれるものだろう” と思って待っていたんですけど、そんなこともなく……。気づいたら、自分の気持ちも冷めていたんです」
二村「ちなみに、同棲してからセックスレスにはなっていませんでしたか? 」
明日香「なってました。私はセックスは嫌いじゃなくて、どちらかの家に泊まるたびにしていたんですが、なぜか一緒に住みはじめた途端にピタッとなくなって……。そうなると、“なんで私たち一緒にいるんだろう?” って考えだしてしまって。いま思えば、一緒に住むときに結婚しちゃって、子どもも早いうちに産んでおけばよかったのかもしれないですが、そのときはその勢いもなかったんですよね」
二村「まあ、冷める前に籍を入れたとしても、家族になると結局レスにはなっちゃう、というケースもありますからね」
──子どもが生まれてすぐは、女性側がしたくならないのは普通らしいですが、のちに奥さんの性欲が復活したころには、今度は旦那側が“今さらもうできない”って話も聞きます。
二村「そういうのって、愛し合ってるカップルが一緒に暮らす“結婚”という制度におけるシステム上の、というか、現代の生活がはらむ “バグ” じゃないかって感じもするんですよ。別にどっちが悪いというわけでもないのに、うまくいかない。昔の人だったら夜、特にやることもないから、家族になってからもずっとセックスしていたかと思います。でも、それはそれで、夫だけがしたがっていて妻は拒否できない、現代だったら“家庭内レイプ”と呼ばれてしまうケースもあったでしょうけど」
まじめすぎる男性と、モラハラ男の存在
明日香「その彼と別れてアプリに登録したばかりのころは、“いいね!” がつくとチヤホヤされてる気分になれて、うれしかったんです。つきあっていたのかというと微妙ですけど、けっこう仲よくなった男性も、さっき話した “つきあった2人” とは別に何人かいました」
二村「明日香さんの相手を見る目が厳しくなってしまったということも、最初に話されていましたが」
明日香「そうなんです。婚活のサイトになると、まじめなんだけど感情表現がなんだかロボットみたいな人だったり、2回目、3回目と会うのに自分からはまったく意見を言わない人だったり……。一見、何か欠点があるわけではないし、人当たりも悪くはないって思うんですけど、“どうしてそういう行動になっちゃうんだろう” って人ばかりだったんですよ」
二村「例えば、どんなことがありました? 」
明日香「有名な企業で中間管理職をされている人だったんですけど、必ずアンパンマンのスタンプばかりのLINEを送ってくるんです。“なんで毎回アンパンマンなんですか?” って聞くと、部下とのコミュニケーションで自分では面白いつもりのスタンプを送ったら “意味がわからなくて困りました” って言われるとか、前にマッチングした婚活目当ての女性から “このスタンプはセクハラになります” ってダメ出しされてフラれたことがあって、自分のセンスに自信がないって言うんですよ。
それで、どのスタンプなら嫌われないのか周りに聞いたら、アンパンマンなら大丈夫って言われたから、それしか使わないようにしてるって言うんです。お給料もいいし、頼りがいもありそうな人だったのに……」
二村「それで会うのをやめたんですか?」
明日香「いえ、“私はたとえ、多少エッチなスタンプでもセクハラとか言いませんから、ご心配なく” って冗談で言っちゃったんです。そしたら逆に引かれたみたいで、“明日香さん、積極的な方なんですね……” って言われて、向こうから連絡がこなくなりました」
二村「婚活や出会い系では、いろんな経験ができますね」
明日香「(笑)。二村さんはご自身のインタビュー記事(「理想の相手と出会えない」「“心の穴”が満たされない」婚活女子の悩みを“モテ本”の著者にぶつけてみたら)で、ちょっと人柄的に物足りない男性でも、つきあいながら女が自分好みに教育していけばいいんじゃないかっておっしゃっていましたけど、まじめだけど話が噛(か)み合わない男性を育てるのは、なかなか疲れるだろうなあって思います」
二村「そうですね。それに考えてみれば、教育を受けてくれるのは先方がこちらに恋をしてる場合だけですよね。相手が “結婚はしたいけど、そもそも他人を好きになるということがよくわかっていない” という男性だと、こちらのやってほしいことを教えるもクソもないですね」
明日香「最近では “つまらない男性と話すのはもうしんどい。なんでこんなに頑張ってまで結婚しなければならないんだっけ” って感じるようになっちゃって」
──それ以外にも、男性のどういう部分が気になったりしましたか?
明日香「なんだか私より上に立とうとする感じの人が何人かいて、モラハラ予備軍だったのかなと。前の前にちょっとつきあった人も、“女性はこうしたほうがいい” みたいに押しつけてくる人だったんです。結婚するなら、フラットに向き合ってくれる人がいいなって感じています。あとは、ちゃんと “うれしい” とか “おいしい” とか、気持ちを口に出してくれる人がいいです」
二村「ご飯を食べてるときとか、いま一緒に体験していることに対するポジティブな感情を自然に伝えてもらえると、こちらは安心するものですよね。デートで食事をしたり映画を観たりすることになってるのは、そこを見るためなんです。それぞれの感情や感覚の表し方が、お互いにとって心地いいかどうか。でも恋愛が苦手な男性って、そもそも感情を伝える方法を習得しないまま大人になってしまってる。デートコースをどうするか、どんな店に連れて行けばいいのかといったマニュアルより、そっちのほうがよっぽど大事なことなんですけどね」
*本日の二村格言*
(夫婦がいつの間にかすれ違い、セックスレスになってしまうのは)
「せっかく愛し合ってるカップルが一緒に暮らす制度におけるシステム上の、というか、現代の生活がはらむ “バグ” じゃないか」
今回に続く恋愛相談の第2弾では、二村さんとの対話を続けるなかで、明日香さんの心に変化が……!
(取材・文/池守りぜね、監修/二村ヒトシ)
【PROFILE】
二村ヒトシ(にむら・ひとし) ◎1964年、六本木生まれ。慶應義塾幼稚舎卒、慶應義塾大学文学部中退。AV男優を経て、’97年からAV監督。現在では定番になっているエロの演出を数多く創案した。著書に『すべてはモテるためである』 『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(いずれもイースト・プレス)、共著に『オトコのカラダはキモチいい』(ダ・ヴィンチブックス)、『どうすれば愛しあえるの ──幸せな性愛のヒント──』(KKベストセラーズ)、『欲望会議』(角川ソフィア文庫)など。
本人Twitter→@nimurahitoshi