2022年4月に発表した『Partner』がSNS総再生回数13億回を数え、一躍注目の的となったシンガーソングライターの有華さん。
今年1月のデビューデジタルシングル『Baby you』もSNS総再生回数20億以上の話題曲に。4月12日、NHK夜ドラ『おとなりに銀河』の主題歌『HAPPY DATE』を配信リリースするなど快進撃を続けています。
心温まるラブソングのイメージそのままの、朗らかな有華さんですが、デビューに至るまで10年余と下積みが長い苦労人。
今回、「こだわりのものを見せてください」というお願いに、ご持参くださったのは2冊のノート。その1ページごとに、夢をたぐり寄せるしなやかな強さが詰まっていました。
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ノートに書き続けた夢は実現している
──2冊のノートは、有華さんにとってどんなものですか?
まず、小さいほうは、歌詞を書くためのノートです。買ったのは高校生のころで、使い始めたのは自分で曲作りを始めた大学生のときから。ノートを使い切ってから新しいものを買うのではなく、気分で使い分けているので長持ちしてるんです(笑)。
最近は、スマートフォンに歌詞のタネをメモするという新しい作り方に挑戦しているので、このノートには少しお休みしてもらってます。
もうひとつのノートは、私がラジオ番組のアシスタントをしていたとき、ゲストに来てくださったアーティストのNakamuraEmiさんから直接いただきました。いわゆるノベルティですが、NakamuraEmiさんの音楽が好きでとても尊敬している私には宝物。なので、目標や夢、なりたい自分を描くことにしています。
言葉にすると、理解が深まるというか。小さいころから歌手になる夢は決まっていましたが、“なぜなりたいのか”“どうすればなれるのか”といった、自分の中ではっきりしないことを文字にしてみることで、自分なりの答えを探っていたのかなって。
小学生のころに書いた、“まだ歌手じゃない自分”への疑問
それに、小中学生のころは授業中に、ノートや教科書の余白にいたずら書きをよくしていました。この前、実家の大掃除をしていたら当時の教科書が出てきて、“私は歌手になるのに、なぜまだ勉強してるんだろう”って書いてあって(笑)。そういう過去の記録を眺めるのもけっこう好きなんですよね。
──初めから、自分の経験を歌詞にして歌うシンガーソングライターを目指していたのですか?
子どものころは、シンガーソングライターというよりは、歌手になりたい気持ちが大きかったと思います。オリジナル曲を作り始めたころは、正直、(歌詞を書くことに)苦手意識がありましたね。
というのも、読書があまり得意じゃなくて、難しい言葉とかもうまく使いこなせないんです。ただ、“思いを吐き出す”のはわりと得意なので、自分の中から湧いてきた思いをそのまま歌詞にしていくような感じです。
あとは、人間観察をして“授業中になんか眠たそうな人は頬づえつくな”とか、そういうことを学生時代もよく書き留めていました。いま思うと、ちっとも授業に集中してなくて、先生に申し訳ないです(苦笑)。
ノートを開けば昔の自分が初心に戻してくれる
──このノートを書くとき、有華さんなりのルールや決まりごとはありますか。
鉛筆などではなく、消えないボールペンで書きます。歌詞は決まるまでに何度も書き直すことが多く、何度も推敲(すいこう)を重ねると、途中で本来歌いたかったことからどんどんズレていくこともあるんです。そんなとき、たとえぐちゃぐちゃに線が引いてあっても消さずに残っていれば初心に帰れるんです。
夢や目標を書くときは、消せないからこそ苦しいなと感じることもあります。書くためには自分自身とすごく向き合わなきゃならないから重たい気持ちになるし、目標がなかなか達成されないと落ち込んでしまうこともあります。
ページを見返すと“あ~、病んでるな”みたいな真っ黒いページがあったりして(苦笑)。今日、写真を撮っていただいたページも、いまは自分の中で消化できたから見せられるけど、書いたばかりだったら絶対に見せられなかったでしょうね。
ときには辞めようと思ったことも。立ち止まることができた理由
──ノートに思いをぶつけ、ときには歯を食いしばりながら、あきらめずに活動を続けられたのはなぜだと思いますか。
やっぱり、みんなの前で歌うことが何よりも好きだからです。社会人とシンガーソングライターの二足のわらじをはきながら活動した時期もありますし、ようやく手ごたえを感じたと思ったらコロナ禍でライブができなかったりと、しんどかったことも1度や2度じゃありません。
結婚して幸せそうな周りの友達を見て、正直、心が揺れたこともありました。でも、そんな私の歌を待っててくださる人がいつも必ずいたんですよね。
これまでにいただいたファンレターはすべて目を通させていただいていますが、そういう方々の言葉から、私の歌が届いているという実感が持てました。“私ひとりで歌いたいんじゃなく、誰かに歌を届けたいんだ”ってことを、コロナ禍で改めて強く思うようになりました。
デビューまで10年もかかり、端から見たら遠回りかもしれませんが、去年『Partner』が思いがけずにバズったことも含め、“よいタイミング”という宝くじの一等賞を引いたんだなって。むしろ、10年続けたから、いいタイミングがいま、濃く訪れていると感じますね。
──1994年生まれのいわゆる“アラサー世代”ですが、書く言葉や歌いたいメッセージに変化は?
30歳を目前にして、いい意味で“言葉を選ぶ”ようになったかなと。私はもともと“みんな平和になればいいな”って考えるタイプなので、私が発する言葉や歌もできるだけ人に優しいものであってほしいと思っているんです。
ただ、ここ最近は、SNSをきっかけに私を知る人が増えて、マイナスなコメントも目に入るようになりました。以前の私だったら、そうした言葉を見て、めっちゃ腹が立ったり落ち込んだりしたんですが、少しずつ違った捉え方をするようになってきましたね。
そうそう。私、深夜のドキュメンタリー番組とかを見るのがめっちゃ好きなんですよ。いろんな生き方や人生があるなってつくづく思うし、“たくさんある人生の中で、いま、私は好きな歌を歌えて生活できる。こんなありがたいことはないな”って思うようになりました。
その延長線上ではないですが、SNSでいろんな言葉を投げかけられても、怒りとか悲しみとかじゃなく“この人には、何かあったのかもしれないな”と。そうした何かを抱えて苦しい人が元気になれたり、癒やされるような歌を届けられるように頑張りたいです。
(取材・文/キツカワユウコ、編集/本間美帆)
【PROFILE】
有華(ゆか) 1994年生まれ、大阪府出身。幼少期からピアノ・合唱を始め、18歳のときにシンガーソングライターとして活動を始める。2022年4月に配信した『Partner』はストリーミング総再生5000万回、SNS総再生回数13億回、LINEリアルタイムランキング1位を記録。2023年1月にメジャーデビューを果たし、同月にリリース配信の『Baby you』はTikTokでの投稿数が国内外合わせて50万本を突破し、SNS上の楽曲の再生数は20億回を突破。ストリーミング再生数も全世界で1,500万回を突破し、SNSで大きな話題となった。YouTube→@yuka__song、Instagram→@yuka__song