住宅街を歩いていると、いろんなものを目にします。瀟洒(しょうしゃ)な建物やツタまみれの家、洗濯物が大量に干してあるベランダ、庭木の剪定(せんてい)の感じを見たりしながら、どんな人が住んでいるんだろうと思いをめぐらせたりするものです。
バスケットゴールのある家を通ると、家主の思惑に負けた気がして悔しいよね〜
その中でも、ひときわ僕の心をザワつかせるものがあります。それはバスケットゴールのある家です。一瞬「おっ!」っとなります。コンビニで買い物している警察官に出くわしたような。そして僕は一瞬でも「おっ!」っと家主の自己顕示欲に反応してしまった自分を、激しく後悔します。
家主のその家が高い塀で覆われているわけがありません。なぜなら、それを見せたいから。本当にバスケットが好きでなくてもいいんです。見せたいだけだから。つまり家主は自分のためでなく、道行く他人に向けて「どう、おしゃれでしょ!」「生活に遊び心があります」「一瞬『お!』ってなったんじゃない、コンビニで買い物している警察官に出くわしたような」「もう少し行くとバスケットゴールのある家があるから、そこを左って道案内の目印にしてもいいよ」って思ってるんだよ! まんまと引っかかっちゃったよ!
と同時に家主は「こういうバスケットゴールのある庭をよく思わず嫉妬して文句を言う人も一定数いるよね」とも思っているに違いないと考えると、悔しくて悔しくて、期間限定のポイントを1日遅れで気づいて無駄にしたくらい悔しいつぶやきシローです。今年もよろしくお願いします。今年も何のためにもならない僕の愚痴(ぐち)を書いていくんだろうな。
よくさ、「今年は勝負の年」なんて言ってる人いるけど、知ったこっちゃないよね。もし自分が占いで「今年は勝負の年ですよ」って言われたところで、どう勝負していいかわからないし、2月には忘れているし。そんなことを1年間思いながら生活してる人っているのかね? ただ、聞かれれば、それっぽいこと言うタレントさんいるよね。「今年は勝負の年なので、全国ドームツアーを成功させたいと思います」とか「事務所を独立して一から勝負の年です」ってカッコいいよね。志が高くてすばらしいね。
スピード勝負は周囲より速いだけでなく、「おすまし顔」がポイントだよね〜
僕はそんな自慢できるようなことじゃないんだけど、日々現れる目の前の敵とは勝負をしているんだよね。例えば、僕は普通のママチャリに運動がてら乗っているんだけど、目の前に電動自転車が走っていると勝負しにいくね。すました顔で抜いていく。この「すました顔」がポイント。息を切らしながら立ちこぎで抜いてもスマートじゃないからね。なのに、電動自転車をママチャリで抜いてる途中の僕を、さらに大外から抜いていくスポーツタイプのチャリがいるからね。こっちは喜びに浸る暇もない。わざとそのタイミングを狙って抜いてるんじゃないかってくらい。まー悔しいね。横断歩道の赤が長いなと思ったら、押しボタン式で押してなかったくらい。
横断歩道といえば、みんなもやったことあると思うんだけど、横断歩道で青になった瞬間のスタートダッシュ。誰にも負けたくないんだよね。渋谷のスクランブル交差点でそういう人よく見かけるよね。赤信号が長くて下向いてたら、隣の人の足が動いたから、あわてて渡ろうとしたらまだ赤だったことも大いにあるけどね。隣の人のフェイントに引っかかった自分が悪いね。
あと、駅のエスカレーターに乗らず、横の階段を上る派の僕は、ただじっと立って移動しているだけの人には負けたくない。階段の1歩目のときに同時にエスカレーターに乗った人をライバルと見立て、勝負を挑み、その人より早く上りきるのだ。対戦相手はそんな勝負をしているなんて思ってもいないだろう。それでいいのだ。こっちは口呼吸したいけど鼻呼吸でおすまし顔。それも含めバレていたら、店員さんだと思って話しかけたらお客さんだったくらい恥ずかしいけどね。
孤独に戦う我慢勝負からの、経験者が多そうな“自動改札バトル”も外せないよね〜
やっぱりベタに速さを競うスピード系が多くなっちゃうね。じゃあ、スピードとは逆に我慢の勝負。よく言うのがサウナね。自分があとから入って、先に入っていた人より先に出ないとかね。サウナの中で誰かひとりライバルを見つけて、あの人より先に出ない。その人が先に出て自分が勝ったと思ったら、また新たな刺客が現れての無限ループ。命からがらで脱出し水風呂へ。またそこで繰り広げられる我慢の勝負。
第2ステージは冷たさ。血管の収縮すごいな。みんな冷たさに耐えられないのでしょう。何人もが入ってはすぐ出ていく水風呂で僕は、「ハイ勝ち、ハイ勝ち」と勝負に勝っていくのです。サウナより水風呂で勝つほうが難しいって前から言ってんだけど、誰も賛同してくれないんだよね。もっといろんな媒体で言っていこう。「サウナあるあると言えば、水風呂で一緒に入っている人より先に出ると負けだから、寒いけどすました顔で我慢するよね」って。ウケないけどね。なんで水風呂のほう? ってなるけどね。いいの。言い続けるの。僕ひとりの我慢の勝負。
あと友達とかと神社にお参りに行くと、「二礼二拍手一礼だよね」って、われ先にと誰かが言うんだよね。そのあとの手を合わせて祈っている時間の長さ勝負ってのもあるね。なんか先にやめたくない。ひとつでも多く願い事を、という欲深さも後押しして誰よりもいちばん長く手を合わせ、目を開けて振り返ればみんなが自分待ちをしていたら勝負に勝った。でも、なんか虚しいんだよね。そんなことでみんなを待たせたという罪悪感。こんな自分がみっともない。神様ごめんなさい。
そうだ、駅でもうひとつ。こっちの経験者のほうが多いかな。自動改札で向かいから人が来たときね。先にタッチしたほうが通れるからね。必死にタッチしにいくのも違うんだよね。あくまでもスマートなタッチの差で勝ちたい。「え、何かありました?」って、おすまし顔で勝ちたい。で、負けた相手は横の改札に、勝者は自分のために開かれたランウェイを通るんだけど、勝ったはずなのに気持ちよくないんだよね。自分に対して、だから何だよって感じ。相手はあえて譲ったのではないか、譲った相手の勝ちなんじゃないかってね。それで次のそういうギリギリの勝負のときにあえて譲ってみたの。そしたら、そっちのほうが気持ちいいんだよね。人に譲ったほうが。でもまた忘れて勝ちにいっちゃうんだけどね。その繰り返し。「勝つ」って何だろうね。
勝負はスピード系が多いので、時間を表す砂時計のイラストを書きました。題名は「砂風呂って熱いよね。サウナの中の砂時計の砂は、もっと熱いよね」です。ひっくり返さないでね。
(文・絵/つぶやきシロー)
【PROFILE】
つぶやきシロー ◎1971年3月10日、栃木県生まれ。お笑いタレントや俳優として活動するかたわら、2011年からは小説も執筆。2021年には、著書『私はいったい、何と闘っているのか』(小学館刊)が安田顕主演で映画化された。2022年4月、新著『こんな人いるよねぇ~──本を読んでつぶやいた』(自由国民社刊)を上梓。また、2009年から公式Twitterでほぼ毎日「あるあるネタ」をつぶやき続けて大人気に。フォロワー数は103万人を超える。(2023年1月現在)
公式Twitter→@shiro_tsubuyaki