小学生のころからヨーヨーを始め、現在はヨーヨーのパフォーマンスや交流会を主催しながら、株式会社そろはむの代表として『ヨーヨーショップ スピンギア』を経営しているヨーヨーマスターTAKAこと、長谷川貴彦さん。
前回のインタビューでは、長谷川さんがヨーヨーに魅せられたきっかけと、大成功に終わった世界大会までの歩みをお伺いしました。【インタビュー第1弾→「ハイパーヨーヨーで人生が変わった」ヨーヨーマスターTAKAこと長谷川貴彦さんが歩んだ軌跡】
2021年10月に東京・秋葉原から高円寺へ移転したスピンギア。「子どもが気軽に立ち寄ってくれるおもちゃ屋として地域に寄り添っていきたい」と、ヨーヨーの枠からはみ出た新たな道に挑戦しています。そんな長谷川さんから、お店にかける思いや展望について熱く語ってもらいました。
街のおもちゃ屋さんを目指して、高円寺へ移転
――スピンギアは2021年10月に高円寺へ移転しました。世界大会という大きな実績を残した秋葉原を、あえて離れた理由とは?
「ヨーヨーをコミュニケーションツールとして広めたいと活動を続け約20年、秋葉原で店舗を構えて10年と続けてきた結果、目標だった世界大会を開催することができた。もうヨーヨーは、僕の手を離れても続いていく世界だと感じました。
でも、せっかく子どもにヨーヨーを教える大人が増えてきたし、この文化をなんとか次世代につなげていきたい。そのために必要なステップとして、次は街のおもちゃ屋さんを目指したくなったんです。それでお店を選ぶ際は安心感のある店構えがいいなと思っていたのですが、今の物件を見た瞬間、ここだ!と思い、その日のうちに決めました」
――さまざまな街がある中で、なぜ高円寺を選んだのでしょうか?
「僕自身が杉並区にゆかりがあり、以前から荻窪・阿佐ヶ谷・高円寺あたりでお店を構えたいなと思っていました。なかでも高円寺は古着、アメコミ系のトイショップと、ファッションやサブカルチャーに関するお店がたくさんある。『東京高円寺阿波おどり』『高円寺びっくり大道芸』『高円寺演芸まつり』など年間行事もたくさんあって、商店街が活発に活動している。街を歩いていて雰囲気が気持ちよくて楽しくて、健全なサブカルタウンだと感じたんですよ。
さらにヨーヨーの世界チャンピオンが高円寺に住んでいたり、ヨーヨーブランドの会社があったりと、高円寺はすでに“ヨーヨーの聖地”でもありました。街のおもちゃ屋さんとして地域密着型でありつつ、世界のヨーヨーファンも足を運べるようなお店にしたかったので、最適な場所だと思いましたね」
――スピンギア高円寺店ではヨーヨー以外にも、コマやけん玉などのスキルトイ(※)も取り扱っていますよね。
「ヨーヨーはスピンギアの軸となる大事なコンテンツだけど、けん玉もコマも道具が違うだけで、手先を使ったりひもを使ったり同じような遊びです。実際、2015年に開催した世界大会は、ヨーヨーだけでなくコマも一緒に巻き込んだイベントでした。ヨーヨーの世界の広がりと比べると、コマは国内だけの遊びで、視野を広げれば継続的に発展していく余地がもっとある世界だなと感じたんです。
(※コマ、けん玉など遊ぶうえで一定の技術が必要なおもちゃの総称)
そこで、自分たちがヨーヨーで経験してきたノウハウを同じようなおもちゃに広げていけばもっと面白くなるだろうと思ったんです。一応『スピンギア(SPINGEAR)』という屋号なので、回転するおもちゃならいいだろうと(笑)。今は自分が好きなもの、極めたいことを突き詰めてもらいながら、視野を広げるきっかけになるお店であることがスピンギアの役割だと思っています」
スキルトイで広がるつながりが、人生をプラスにしていく
――オープンからもうすぐ1年たちますが、目指していた“街のおもちゃ屋さん”には近づけていると感じますか?
「お客さんとして地元の子たちもついてくれているし、学校が終わってから遊びに来てくれる子もちらほらいるので、自分がやりたかった街のおもちゃ屋さんに近づけていると思っています。そういう子たちに世界トップレベルの技を見せて刺激を与えることが、僕らにとって楽しいことの一つでもあります(笑)。僕らのことを知らない子どもたちがほとんどで、“なんでそんなにすごいの!?”と自然と興味をもってくれるんですよね。今年の6月11日には『スピンギアカップ』というイベントも開催して、すごく盛り上がってくれました」
――スピンギアカップとは、どんなイベントなのでしょうか。
「キャリア20年以上のコアな選手から地元の子どもまでさまざまな人たちが集まったのですが、ざっくり言うと、ヨーヨー・けん玉・コマ・ベーゴマをみんなで遊ぼう!というイベントです(笑)。それぞれのおもちゃの遊び方を体験する時間を設けて最終的にちょっとした大会を開くのですが、例えばベーゴマの大会の景品にお高めのヨーヨーを用意してみたりと、ヨーヨーしか遊んだことのない人が、その場でベーゴマを習って大会に出る流れをつくりました。
ヨーヨーをやってきた人はヨーヨーで得た知識・練習方法などをほかのスキルトイでも応用できるんですよね。ヨーヨーに限らず、どのスキルトイもコミュニケーションツールであり、人生をプラスにする道具だと思っているから、横のつながりを広げて楽しんでもらいたいなと考えました。
特にヨーヨー歴20年くらいのベテランはコミュニティがどんどん固まってしまいます。だからこそ、新しい刺激を受けて原点に立ち返ったり、違う発想を得たりしてほしかったんですよね。実際、高円寺の子どもたちが純粋に楽しむ姿を見て新鮮な気持ちになっている人もいたので、開催してよかったと感じています」
――子どもたちにとってもいい刺激になりそうですよね。
「スキルトイを通じてコミュニケーションが取りやすくなるのは確実にあると思います。今は世代問わず遊ぶこと自体が珍しいですし、自分が楽しんで遊んでいることを見せたり、できないことを教わったりする環境ってあまりないですから。
例えばテレビゲームとかを普通に遊んでいても、すごさが伝わらなかったりほめられることも少ないと思うんですよ。だけど、ヨーヨーやけん玉、コマといったスキルトイは、動きも大きくて技のバリエーションも多い。うまくできたら全力でほめてもらえる。ほめられたら嬉しいから遊びが続いていく……と、自然にいい循環が生まれていくんです。大人、子ども問わず楽しんでいるところを見るのは、僕らとしても刺激になります」
出戻りも大歓迎! 一緒に遊びを広め続けていきたい
――今後スピンギア高円寺店に来てくれた人たちには、どのように楽しんでほしいと考えていますか?
「スピンギアって、普通のおもちゃ屋さんに比べて置いてあるスキルトイが多く、各100種類ずつくらいあるんですよ(笑)。おそらく最初は圧倒されて何を買っていいのかわからなくなると思うので、まずは遠慮せずに僕たちスタッフに相談してほしいです。お客さんのニーズに合ったスキルトイを提案するのは僕たちとしてもすごく楽しいので、自分のレベル、やりたいこと、できる技を聞かせてもらったり見せてもらったりして、一緒に選べたら嬉しいです。今年秋にはイベントも開催予定なので、そちらも楽しみにしていてください」
――プロのみなさんに選んでもらえるのはとても心強いですね! そんなスピンギア高円寺店を、どのようなお店にしていきたいでしょうか。
「興味のない子に押しつけることはしないけど、少しでも気になる子には“こんな世界あるけど、どう?”と引っ張ってあげたいです。軽くふれるだけのライトな人も、本気でハマっているようなコアな人も両方巻き込んでいきたいですし、文化が継承していく場所としてスピンギア高円寺をつくっていきたいと考えています。そして、『真剣な遊び』の入り口としてお店をずっと続けていきたいですね」
――最後に、長谷川さんの夢を教えてください。
「子どもたちが大人になって、うちで働いてくれるのが僕の夢です(笑)。最近、ハイパーヨーヨー世代の人たちが出戻りしてくることが多いんですよ。社会人になって忙しくて一度はヨーヨーから離れたけど、子どもができて落ち着いたタイミングで戻ってくるような感じで。そういう人たちのためにも、僕らはスキルトイのランドマークとして変わらず居続けていきたいと思っています。ぜひ親子2代・3代で楽しんでもらいながら、みなさんと一緒にどんどん遊びを広め続けていけたら嬉しいですね」
(取材・文/阿部 裕華、編集/FM中西)
◎長谷川さんTwitter→https://twitter.com/taka_yoyo