ポチャッコ、ハンギョドン、バッドばつ丸、タキシードサム、けろけろけろっぴ、あひるのペックル。彼らは、昭和の終わりから平成初期にかけて登場した、人気のサンリオキャラクターです。幼いころに、キャラクターがあしらわれた筆箱を使っていたり、レターセットで手紙を書いたり、兄妹姉妹でキャラ違いのポーチを買ってもらったり。キャラクターとともに子ども時代を過ごしたことのある人は多いのではないでしょうか。大人になって久しぶりに目にすると、懐かしさがこみあげて、“好き”が再燃することもあるはずです。
2020年1月、この6つのキャラクターたちが『はぴだんぶい』というユニットを結成したことはご存じでしょうか。「ハッピーになりたい男子たち、V字回復をねらう」という意味をこめて名づけられた『はぴだんぶい』。かわいらしさはもちろんのこと、面白くてちょっとハッピーになる、応援したくなる存在です。
単体のキャラクターとはまた違う彼らの魅力をひもとくために、私たち取材班は株式会社サンリオを訪ね、ブランド育成課で『はぴだんぶい』を担当する皆川真穂さんにお話を伺いました。
サンリオ史上初! 既存キャラクターによるユニット
「『はぴだんぶい』がデビューする少し前、中・高生の間で、昭和から平成のサンリオキャラクターが流行った“懐かしブーム”がありました。ポチャッコやタキシードサムなどのひと昔前に一世を風靡(ふうび)したキャラクターたちにも、再度注目が集まっていたんです。そんな彼らでユニットを組むという新しいチャレンジができたら面白いのではないか。そんなところからスタートしました」(皆川さん、以下同)
世の中に知られているキャラクターが、ユニットという新しい切り口で再度デビューするのは、サンリオでは初めてのこと。「あの『けろけろけろっぴ』が、今は『はぴだんぶい』で活躍しているのか」という新しい感動が芽生えます。
「けろけろけろっぴもあひるのペックルも、みんな絶大な人気を集めた子たちですが、新しいキャラクターが続々と誕生し、その人気の陰に隠れて日の当たらない時期が実は長くありました。この下積みの期間を経て、近年の懐かしブームで着実に人気を取り戻しつつある彼らだからこそ、体現できることがあるのではないかと思ったのです」
スポットライトが当たらない時期も、自分らしさを大切にしてきた男のコキャラクターたち。彼らが『はぴだんぶい』として、“大丈夫!君は君のままで、きっとうまくいく”というメッセージを発信することで、今のままでよいか悩む私たちを勇気づけてくれています。「いわゆるトップスターではない彼らに、新たな気持ちで共感していただけるのではないでしょうか」と皆川さんは語ります。
このメッセージを込めて作られたのが、『はぴだんぶい』のデビュー曲『ダイジョーブ』。名前のとおりの応援ソングで、2020年3月に無観客で実施したデビューライブイベントで披露されました。6人の男子たちがバンドを組んで歌う様子は、はぴだんぶい公式Twitterから生配信され、動画視聴数はなんと20万人超え(同年3月13日時点)! みんなの仲のよさやクールな姿がたっぷり詰まったミュージックビデオも制作されるなど、『はぴだんぶい』の活動が始まりました。
“グループ運営”的なキャラクターユニットのプロデュース
『はぴだんぶい』のかわいい姿は、TwitterとTikTokで毎日見ることができます。YouTubeのサンリオ公式チャンネルでも活動の様子を楽しめます。
彼らを見ていると、キャラクター単体のときとはひと味違う、ユニットならではのかわいくて面白い個性も伝わってきました。
「ペックルは元のペックルのままですし、けろっぴもけろっぴのままです。ただ、ユニットとして、どんなふうに動くか、何をしゃべるかは、しっかり考えて設計しています。『はぴだんぶい』の子たちには、“みんなもっとちゃんとしゃべって!”と声をかけることもあって(笑)。まさに“グループ運営”というような立場でかかわっています」
キャラクターユニットをプロデュースする皆川さんの目には、メンバーそれぞれの性格や立ち位置は、どんなふうに映っているのでしょうか。
「ペックルは、やさしくて圧倒的なお人好し。実は『はぴだんぶい』のリーダーです。これはじゃんけんで決まりました。
ハンギョドンはミステリアスボーイ! 何を考えているのか、われわれにもわかりません(笑)。いたずらが好きで人を笑わせることも大好きな子です。
ばつ丸は、男気あふれていてカッコよく、やさしくもあり、でもちょっと意地悪。ひと言でいうとツンデレです。
サムはですね……お金持ちです(笑)! お坊ちゃん、スーパーお坊ちゃんです。いつもタキシード姿で蝶ネクタイを365本持っていますからね。そんなところも注目してみてください。
けろっぴは、スーパー元気! ぴょんぴょんいつも飛び跳ねていて、いつどこで飛び跳ねるかわからない子です。小さいけど元気いっぱいで、面白くてかわいいんですよ。
ポチャッコは、優等生のイケメンだなと、私たちは思っています。かわいくてふんわりしていて、この中では陽キャ。ノリがよくふざけて遊ぶこともありますが、ダメなことはしない子です」
ユニットで見ると、けろっぴとバツ丸とハンギョドンは“いたずらをする子”、ペックルとポチャッコ、タキシードサムは“いたずらをしない子”なんだとか。皆川さんをはじめとする『はぴだんぶい』のチームでは、キャラクターのよさを引き出すことを考え、「この子はこんな見せ方をするとかわいいよね」「こんなふうに見せると楽しくない?」と、日々話し合っているといいます。
皆川さんは、プロデューサーであり、アイドルのマネージャーのように見守る人でもあり、ときには幼稚園児や小学生をお世話するように接することもあるそうです。キャラクターユニットには、単体のキャラとは異なる視点のプロデュースがあることが伝わってきました。
みんなをちょっとハッピーにする“チャレンジ”とは
“ハッピーになりたい男子たち、V字回復をねらう”という言葉のとおり、『はぴだんぶい』は、“チャレンジ活動”として、これまでさまざまなことに挑戦してきました。
「“ハッピーになりたい男子たち”は、いったいどんなことにハッピーを感じるのか、どういったことにお客様は共感を得てくださるか。チャレンジ活動では、“ちょっとだけハッピーになる”をテーマに、今までできなかったことに挑んでいます。私たちは、『はぴだんぶい』のメンバーが楽しくできるか、コラボ相手の方も楽しんでいただけるかを考えて、企画を立てています」
「バンド活動」をはじめ、「心と身体を鍛えてモテモテになれば、V字回復の夢もかなうはず!」と長州力さんに弟子入りして「モテマッスルエクササイズ」をしたり、人気者になるために「漫才」に挑戦したり。彼らのチャレンジ活動は、ちょっとハッピーになれることであり、面白いか楽しいかが重要なジャッジポイント。キャラクターの立ち位置やセリフ、動きなどは細かく考えられていて、「チャレンジ自体はちょっとハッピー。でも、運営はすっごく大変(笑)」と皆川さんは振り返ります。
「『はぴだんぶい』自身が楽しみ、その姿を見てお客様も楽しい気持ちになっていただきたい。私たち運営メンバーも、キャラクターそれぞれの個性やかわいらしさをしっかり見せたいと思っているので、意見を出し合い、活動を作り上げています」
想像以上にファンの層は幅広かった!
『はぴだんぶい』のファンは、もともとキャラクターを知っていた人だけではありません。
「懐かしいと思って再度好きになった方がいらっしゃれば、ユニットを見てファンになった方もいらっしゃいます。いわゆる“箱推し”としてユニットごと好きでいてくださる方もいれば、それぞれのキャラクターのファンもいらっしゃいます。サンリオのあらゆるキャラクターを見わたしても、こんなに多様なファンがいらっしゃるキャラクターは珍しいと思います」
6人の男のコのキャラクターということで、男性のファンの存在も多いのでしょうか。
「そうですね。特に『けろけろけろっぴ』や『バットバツ丸』は、小さいときに持っていたという男性のお客様の声も耳にします。イベントでも、ほかのサンリオキャラクターに比べると男性の応募率は高いです」
皆川さんが想定外だと語ったのは、若い女性ファンが多いということ。キャラクターのデビュー時期にまだ生まれていなかった10代や20代の女性からの支持があるといいます。
「なかでも女子高校生が多いです。SNSや量販店などで出会い、かわいいと思ってくださっているようです。先日、『渋谷109』のサンリオショップに出向いたときも、短時間で何人もの女子高校生がグッズを購入されていて、とても驚きました」
幅広い年代にファンが広がる『はぴだんぶい』。ただ、古参のファンにとってちょっとだけ気になるのは、キャラクターのデザインや色が今風に変わってしまうのではないかということ。皆川さんに聞いてみると、安心する答えが返ってきました。
「キャラクターのデザインは、幅を広げて展開しています。例えばポチャッコは、デビューした当時は赤や黄色、青といった元気な原色カラーが使われていました。現在はデザインの幅が広がり、淡いパステルカラーを取り入れたポチャッコも登場しています。原色もパステルカラーも、いろいろな方向で展開しているため、お客様にはお好みに応じて選んでいただけます。サンリオは、デザインの幅が非常に広く取り扱える会社なので、安心していただけると思います」
「かわいい」はもちろん、「面白く」て「楽しい」存在でもある
「サンリオのキャラクターの好きなところをお客様に伺うと、絶対に『かわいい』という声が上がります。一方『はぴだんぶい』はというと、『面白い』『楽しい』という声が多いんです。チャレンジをする姿やグループでわちゃわちゃする様子、ちょっと間抜けなところを見て、面白いと思ってくださるのかなと思います。ほかにはないことなので、ユニットの特徴なのかもしれません。彼らの面白さからお客様がちょっとでも笑顔になっていただけると、とてもうれしいです」
男のコの6人組であることから、アイドルグループと共通点を見出すファンもいるとか。
「“あの子とあの子はまたケンカしている……かわいい”“またいたずらしている……かわいい”みたいな(笑)。全員の動きの端々を見てくださる方がいらっしゃることを実感し、ユニットとしての楽しさや面白さも散りばめたいと思っています」
ファンが感じる「懐かしさ」にあるものとは
幼少期にそばにあったキャラクターに大人になって再会すると、懐かしさに包まれ、改めてそのかわいさにときめきます。これまでたくさんのキャラクターを生み出してきたサンリオは、この「懐かしさ」をどのように捉えているのでしょうか。
「『懐かしい』という感情は、サンリオではとても大切な感情だと捉えています。幼いころにキャラクターに出会い、大人になってから懐かしさとともに愛着が湧いたり、当時の気持ちが再燃したり。しかもそのキャラクターが、楽しかった思い出や大事な記憶にひもづいていると、懐かしさとともに大切な気持ちもリンクします」
ただこの懐かしいという感情があっても、キャラクターと再会しただけで終わってしまうこともあります。“好き”が再燃して長く気持ちが続くかどうかは、キャラクターが握っているのかもしれません。
「懐かしさとともに、今も色あせない時代に沿ったかわいさを持っていることは、キャラクターを生み出す企業として常に考えている部分です。懐かしさをフックにお客様が戻ってきていただけるかどうかは、非常に重要なこと。お客様が“キャラクターグッズを買ってみよう”“SNSをフォローしてみよう”という気持ちになるかは、再会したときにいかに『かわいい』と思えるかだと感じています」
「かわいい」と言っても、デザインがかわいいものもあれば、存在がかわいいものもある。グッとくるメッセージにかわいさを感じることもあり、本当にさまざまです。
「いろいろな『かわいい』があり、愛着の感じ方があります。私たちブランド育成課のメンバーは、お客様に楽しんでもらうためのキャラクター運営を大切に考えています。キャラクターとのタッチポイントや切り口を探しながら『はぴだんぶい』を育てています」
最後に、これからの『はぴだんぶい』についても教えていただきました。
「お客様とのコミュニケーションを取るためにはSNSは非常に相性がよく、今後もTwitterやTikTokのSNSに力を入れていきたいです。デビュー3周年を迎え、リアルイベントも少しずつ開催できるようになってきました。今年は6人それぞれのイベントも開催してみたいと思っています」
ユニットとして、個々のキャラクターとして、身近に感じられる『はぴだんぶい』。ちょっとハッピーにしてくれる彼らと一緒に、毎日を楽しんでみるのはいかがでしょう。
(取材・文/鈴木ゆう子)