近年では「人と狐の間に生まれた」と噂される安倍晴明や、難聴に苦しんだ天才音楽家・ベートーヴェン、見たものを写真のように記憶する能力で司法試験に一発合格した弁護士と、さまざまな役柄で見る者を魅了し、楽しませてくれる俳優の中村倫也さん。
そんな中村さんが最新作で演じるのは、なんと土星人!? 公開中の映画『宇宙人のあいつ』は、地球人になりすましてきた宇宙人が、地球を離れるまでの3日間で人間としてやり残したことに奮闘する姿を描いたコメディです。
本作で、人間の生態調査のため、23年前に土星から来た「トロ・ピカル」こと、真田家四兄妹の次男・日出男を演じた中村さんにインタビューを敢行! 前編では、撮影中の思い出や、役として、一観客として“ホロッ”ときたシーンなどを伺いました。
地球に来て勉強している子どものような感じ
──今回は宇宙人という役どころでしたが、特別な役作りはされなかったそうですね。日出男を演じるうえで何か気をつけたところはありましたか?
会話のグルーヴ感で進んでいくシーンが多かったので、気をつけていたことといえば、その全体の感じですかね。その中で「日出男」としていることくらいでした。設定として経過している時間や体感、ちょっとズレているキャラクター性などを踏まえたうえで、あとは自分の感覚です。
日出男はわりと周りを観察して、勉強しているという要素が多かったので、自分の役を表現するというよりも、全体のニュアンスにフォーカスしていることが多かった気がします。日出男は人間の生態を調査するために地球に来て、彼の体感では1年の間ですが、地球上での見た目は年相応というよりも、勉強している子どものような感じなのかなと思いました。
──実際に演じてみて、日出男の魅力や好きなところを教えてください。
小さいころ、大人の会話を聞きながら「何の話してんのかな?」と思ったり、100%理解できないまでも、話している人の雰囲気を見ていたりしたことってあったじゃないですか。そういうノリが日出男にもあるかなと思ったし、そこがかわいらしいところなのかなと思いました。
──飯塚(健)監督から「こういう風に演じてほしい」という助言などはありましたか?
特にはなかったです。「名前を呼ばれるときの振り向き方をどうする?」とか、「最初に宇宙人としての能力を使うポーズはどんなイメージですか」というやり取りはしましたけど、 それ以外は基本的に他のみんなも何もなかったと思います。
──今作は、朝食のときに大切なことを家族に話す「真田家サミット」など、食べるシーンも多く出てきましたね。食事のシーンが一番難しいとおっしゃる俳優さんもいらっしゃいますが、中村さんはいかがでしたか?
たぶん、役者も2タイプに分かれるんですよ。食べる前と後のつながりを気にするとか、マナー的に見ている人が不快にならないようにと思うタイプの人と、口に食べ物を入れながら話していても別に気にしないっていうタイプ。今回はわりと後者寄りの4人がそろっていたので、みんな特別気にしたり意識したりはしていなかったと思いますよ。僕も食事シーンに対して特に苦手意識はないですし、あまり気にせずやっていました。
事前に打ち合わせするよりも「やったその場で何が出るのか」楽しみだった
──兄弟でわちゃわちゃしているシーンも、みなさんのそのときのノリに任せて、という感じだったのですか?
そうですね。飯塚さんが今作の脚本も書かれているので、自分の書いたものを役者がどう乗せてくるのか楽しみにしているところもあったと思うんです。「プロとして、こう来てくれよ」という期待も込められていたと言いますか。なので、演者同士でも事前に打ち合わせすることは特になかったです。話すよりもやったほうが早いし、お互いに「何が出るかな」と楽しみにしていたところはあります。
──プライベートでもみなさん仲がいいんだなということが伝わってきましたが、現場での様子を教えてください。
具体的にどんな話をしたかは覚えていないんですけど、基本的に僕と日村さんが無駄にずっとボケ続けて、それを(伊藤)沙莉がいちいち突っ込んでくれて、(柄本)時生がそこに遅めに入ってくる感じです。現場ではずっと笑っていましたね。
──時生さんがちょっと遅めにくるというのは、みなさんが一通り盛り上がってからひっそりと入ってくる感じだったのですか?
時生は入りたいんだけど主導権を握らない性格なので、いつもみんなが盛り上がっているのを見ながら「いつ入ろうかな?」みたいに様子をうかがっていて(笑)。そういうところでも「弟感」が出ているんですよ。
不意打ちのようにグッときてもらえるような作品になったら
──試写を拝見し、笑いあり感動ありで感情が忙しかったのですが、まさかウナギの産卵で泣くとは思っていませんでした。中村さんが日出男として、また、一観客として“ホロッ”ときたのはどのシーンでしたか?
日出男としての“ホロッ”は作中で描かれているので「見ていただければ」と言うしかないのですが、自分が土星に帰るにあたって誰かを連れていかなきゃいけないというところから始まる物語でもあるので、苦しいことも多かったと思います。もちろん、そういうことも忘れて楽しかったこともあったと思いますけど、物語が進んでいくにつれて何らかの帰結点に集約していく段階では、“ホロッ”どころじゃないこともきっとあったでしょうね。
僕自身は“ホロッ”とするタイプではないので、客観的な面で言うと「全体的に」になっちゃうのですが、おっしゃったように意外なところで“ホロッ”とするのは「そういう風になったら面白いな」と思って作っていたし、作るうえでは僕らが“ホロッ”としちゃいけないんですよ。映画を見ている人のほうが気づいたら前を進んでいるみたいなことが、こういう仕事やものづくりのキモだと思うので、「感動させよう」とか「泣かせよう」とするとお互い興ざめしちゃうんですよ。
なので、作品全体として捉えながら、不意打ちのようにグッと入ってもらえるようなものになったらいいなと思いながら作っていたし、そういう目線で関わっていたので。それを言葉で説明するのが難しいので、うまいこと書いてください。
──尽力します(笑)。
日出男の根底にあるものが如実に出たシーン
──作中で、日出男が夢二兄ちゃんとTHE BLUE HEARTSの「リンダ リンダ」を熱唱するシーンが好きでして。あそこで2人の距離がぐっと縮まったのかなと感じたのですが、あのシーンの思い出や裏話などがありましたらぜひ教えてください。
あのシーンでは、日出男がどこまで「リンダ リンダ」を知っていて、どこまで夢二に乗っかるか、みたいなことを考えながらやっていた気がします。飯塚さんから「初めて聞くけど、歌はなんとなく知っている感じでいいんじゃないか」と言われたので、日出男は「なんだこれ!?」と思って「自分も一緒に歌ってみようか」となり、だんだんテンションが上がって、気づいたら甲本(ヒロト)さんと同じような動きになっていた、というたまたまのつもりであの一連のシーンをやっていました。
思い出は、50歳の日村さんが学生服を着ているということで、とりあえず写真をいっぱい撮りました。50歳で学生服を着る人なんて、思想の強い人以外いないですからね(笑)。
──初めて音楽やギターと触れ合ったときの日出男の喜びや感動の仕方が、子どもが初めて何かに出会ったときのように見えて、そのときの中村さんの表情も印象に残っています。
それはもしかしたら、さっき僕が話した「いろいろなことを勉強している子どものような」という、日出男が根底になんとなく持っていたものが如実に出ているからかもしれないですね。
──日出男のように、もし「あと3日でいなくなる」という人がいたら、中村さんは残りの時間でどんなことをしてあげたいですか?
夢二が日出男に「やりたいことリストを作れ」みたいなことを言いますが、僕も自分がサポートできることだったら、一緒にやってあげたいなとは思います。
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後編では、中村さんの朝ごはん事情や「家族とは」についての持論、最近気になっている動物のことなどいろいろとお話しいただきます!
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/有村蓮、ヘアメイク/Emiy(エミー)、スタイリスト/戸倉祥仁(holy.))
【Profile】
●中村倫也(なかむら・ともや)
1986年12月24日生まれ、東京都出身。最近の主な出演作に、ドラマ『石子と羽男』(TBS系)、映画『ハケンアニメ!』、配信ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』(Prime Video)、 舞台『ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~』『ケンジトシ』など。現在、『ザ・バックヤード 知の迷宮の裏側探訪』(NHK Eテレ/ナレーション)が放送中。7月期の連続ドラマ『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)で主演を務める。
【Information】
●映画『宇宙人のあいつ』絶賛公開中!
監督、脚本:飯塚健
出演:中村倫也、日村勇紀、伊藤沙莉、柄本時生ら