いつの間にか恋に落ちていた……? 大石静作品の魅力とは
最初はなんとも思っていなかったのに、気づいたら恋に落ちている。脚本家・大石静さんが生み出す男性キャラには、不思議な“魔法”がかかっているんですよね。ハマり役を与えるというよりは、役者の新たな一面を引き出す感じ。
現在放送中のドラマ『星降る夜に』(テレビ朝日系)でも、北村匠海さん(演じる柊一星)のヤンチャっぷりに、驚いた人もいるのではないでしょうか。ほら、北村匠海さんってめちゃくちゃ硬派なイメージがありません?
私の中で印象的なのが、バラエティ番組『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ系)に出演されていたときのこと。かなり神妙な面持ちで、「過去に一度だけ、母親にひどいことを言ってしまって……」なんて切り出すものだから、“何を言ってしまったの!?” と、ハラハラしながら見ていたら!
なんと、「“あんた”と言ってしまったんです」と言い出して! スタジオMCからも、「それだけで!?」とツッコミの嵐。私はこのときに確信しました。“北村匠海さんは、とにかくええ子なんや……”と。
心優しいからこそ、巻き込まれ型のキャラクターがハマるんですよね。『君の膵臓をたべたい』(2017年)で、自由奔放なヒロインに振り回されていても、“この子なら、(そんな主人公にも)ついて行ってあげそう”と納得できたし、『東京リベンジャーズ』(2021年)の主人公・花垣武道役もすごくしっくりきていた。
私がもし、「北村匠海さん主演のラブストーリーを考えてください」と言われたら、絶対に強気なヒロインと、心優しい北村匠海さんキャストの物語を提案していると思います。実際に、そういう役柄も多いですよね。
でも、大石静さんはやっぱりすごい。パブリックイメージとは真逆の巻き込み型の役柄を与えて、彼の新たな魅力を引き出したのです。ヒロインをギッとにらみつけて、「おまえのゲロ全部片づけた。バーカ!」なんて、今までの北村匠海さんじゃ考えられない……!
大石静の魔法にかけられた男性キャラは、ほかにも
そのほかにも、大石静さんの魔法にかけられた男性たちはたくさん!
中でも、いちばん印象に残っているのが、2020年放送のドラマ『知らなくていいコト』(日本テレビ系)で柄本佑さんが演じた尾高由一郎です。
尾高は、フリーランスの動物カメラマンで、主人公・真壁ケイト(吉高由里子)の元恋人。“妻子持ちという設定が、こんなにもプラスに働くことあるんか?”と思ったのを覚えています。
とにかく、色気がすごいんですよね。元恋人であるケイトに「(付き合っていたとき)なんで結婚したいなんて言ったの?」と聞かれて、「それは、ケイトを離したくなかったからだよ」とかサラッと言えちゃう。そんなん、また好きになっちゃうじゃん〜! 結局、ほかの女と結婚したくせに〜!
ドラマを視聴されていない方は、この時点で思いましたよね。「いや、そんなの絶対に悪い男やん」と。そうです。尾高は既婚者だし、やっていることは最低。でも、最低に見えない。だって、ケイトを抱きしめるときに、愛おしそうに彼女の頭にアゴを置くんだもん。そんなん、愛してないとできないじゃん!
ただ、本来の私は、どんなに美しい恋のお話でも、そこに不倫とか浮気が挟まると応援できないタイプなんですね。Netflixで配信されている『First Love 初恋』も、しっかり泣いたけど(泣いたんかい!)、結ばれた主人公ふたりのために、犠牲になった人たちのことを考えてしまいました。『silent』(フジテレビ系)も、戸川湊斗(鈴鹿央士さん)を見るたびに苦しくなったものです。
それなのに、『知らなくていいコト』のケイトと尾高の恋は、なぜか応援できた。世間体とかモラルとか、そういうものをすべて捨てさせてしまう力が、尾高にはあったんですよ(実在していなくて本当によかった)。
パッと見は普通の道だから、平気な顔をして歩いていたら、実はそこは“沼”だった……ということがよく起きるのが、大石静作品なのです。
ムロツヨシのB面さえ引き出す、恐るべし大石作品
また、大好きなドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)についても語らせてください。
若年性アルツハイマー病に冒された医師と、自分を忘れていく恋人を、明るくけなげに支える元小説家の恋路を描いた同作で、私が“沼”に落ちたのがムロツヨシさん演じる間宮真司。なんと、ムロツヨシさんは本格ラブストーリー初挑戦だったとか。
だからかわからないけれど、とにかくギャップがやばくて。ヒロインを献身的に支える姿が、本当に刺さったんですよね。
このドラマが放送されている期間の私は、back numberが歌う主題歌『オールドファッション』のヒロインに、自分を投影していましたもん。完全に、“真司の女”になってましたもん。彼がよく飲んでいたはちみつ黒酢ドリンク、コンビニで見かけるたびに買っちゃってたもん(恋じゃん)。
よくバラエティ番組で、「合コンで好きなタイプを聞かれたとき、“ムロツヨシ”と答える女はあざとい!」なんて言われているけど、『大恋愛』を見たら誰しもそう言いたくなる。本当に、まっじで最高なので見てほしい!
ちなみに、『知らなくていいコト』と『大恋愛』の放送期間に、大石静さんにかけられた“魔法”の効力は、いまもなお持続中。
来年放送の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)で、吉高由里子さん×柄本佑さんの再共演が決まったときは、最高に嬉しかった〜! しかも、脚本を担当するのが大石静さんですよ……! 良作確定フラグじゃん! 『星降る夜に』も面白い展開になってきたし、楽しみが尽きない! エンタメ最高です!
(文/菜本かな、編集/本間美帆)