一部上場企業のトップ陣や政治家にマスコミ向けの振る舞い方を教えるメディアトレーニングから、映画・ドラマにおける女優のエレガント所作指導、男優向けのスマート所作指導、お受験作法の指導まで行い、多くの人々へ“一流のノウハウ”を届けるカリスママナー講師の諏内えみさん。
一人ひとりに合わせたオーダーメイド型のプライベートレッスンのほか、「ハッとさせる 美しい立ち居振る舞い」「また会いたいと思わせる 会話力アップ」「和・洋テーブルマナー講座」など、開催する講座はキャンセル待ちが出るほどで、国内はもちろん、アメリカ・中国・カナダなど海外でも評判を呼んでいます。最近では「婚活カウンセリング」の講座で多くの男女を成婚に導いており、その手腕は“諏内マジック”と絶賛されるほどの人気ぶりです。
2022年8月には新著『大人の若見えを叶えるしぐさとふるまい〜一瞬で見た目年齢が下がるアンチエイジング・メソッド』を上梓された諏内さんに、“若見え”のために本当に気をつけるべきポイントや、「育ちがいい」とはどういうことか、東京・丸の内の会社員からマナー講師に転身したきっかけなどについて、語っていただきました。
“若く見せたい願望”が強いはずの人たちが、“老け仕草”をしてしまっている
最近の女性は、25歳を過ぎたあたりから徐々に老化への不安が芽ばえ、「1歳でも若く見せたい」という気持ちになるようです。確かに、女性は30歳くらいになると「自分はもう若くない」と感じるもの。そのころから、すでに「老けて見えるのが怖い」と感じる人が多いんですね。
実際、アンチエイジングの講座を開いた際には、なんとアラサーの生徒さんがいちばん多かったんです。教室に入っていらした60歳の方が、「あら、私、間違ってた?」とたじろぐくらい、集まったのは若い女性ばかりでした。
マナーを教える方はたくさんいらっしゃるし、マナー本も山のように出版されていますから、一般的なことは、マナー講座に行ったり書籍を読んだりすれば、知ることができます。では、その知識の先に読者が何を求めるかというと、「美しい所作や仕草を身につければ、本当に若々しく見られる」という自信なんです。そんなテーマの本が読みたいというご要望が多く、新刊では、さまざまな振る舞いのビフォー・アフターを比べるかたちで、「若見え」のコツをまとめてみました。
「若く見せたい」ところに特化するにあたり、街行く女性たちを観察していたのですが、「あんなに若くてきれいなのに、どうして老けて見える動作をしてしまうのかしら」と感じる方をたくさん見かけ、驚きました。
具体的には、「背中を丸めないで鎖骨をぐっと開くようにすると、10歳は若く見えるのに」とか、「つま先を開いて立てば美しいのに、内股具合が“オバさん”ぽいな」とか。若く見せたいという願望が強いはずなのに、気がつかないうちにやってしまう、ちょっとした“老け仕草”によって損をしている女性たちが目についたんですよね。
“オバさん”と思われがちな仕草には、例えば「道の真ん中で急に立ち止まってスマホを見る」があります。かなりの時間、仁王立ちとか棒立ちになっている方もいますが、これは俯瞰力がなくなっている状態です。老化を感じさせるだけではなく、マナーに欠け、さらに美しくない。それが“オバさん”の法則なんです。
「歩くときに斜め後ろに大きく手をふる」「座ると、ひざが常に開いている」「テーブルの下で足をからませている」なども要注意です。ひとりのときは、もちろん構いませんが、人前では気を引き締めたほうがいいですよね。ひざが少しずつ開くとか、口角がだんだん下がるとか、ミリ単位で“オバさん感”が出てしまうところをぐっと頑張ってこらえるだけでも、周りからの見え方は全然違ってきますよ。今回の著書には、加齢を感じさせない座り方、若く見える歩き方など、“オバさんモード”に入ってしまうクセの修正方法も盛り込んでいます。
それから、“オバさん見えあるある”の最たるものが、「ひざを折らずに物を拾う動作」です。1回しゃがむと、立ち上がるのが面倒だからと、腰を曲げ、足を開いて拾おうとする。この動作を避け、筋肉を使うことを惜しまないようにするよう、肝に銘じておきましょう。
それと「歳を重ねたらケアも重ねる」が鉄則です。肌や髪のケアはもちろん、靴の汚れ、服のほつれなどは、だらしがなくなると歯止めがきかなくなります。「面倒くさい」という思いが出てきても、人に見られているという意識を捨ててはいけません。
最後に「手放す」ことも大事。自分がきれいだと言われていた“モテ期”のころのメイクやヘアスタイル、洋服にしがみつかないで捨てることです。歳を重ね、流行も変わってきた今、もはや似合わないことを認識しましょう。
「若く見える=美しい仕草が身についている」ということであり、それがマナー的に正解でもあります。ときには「若見え」を超えて、若さが映える「若映え」さえ可能です。心がけ次第で、“オバさん”と呼ばれない明日が待っています。
「育ち」は今からでも変えられる! マナーは「型」から入ることが大切
2020年に出版した『育ちがいい人だけが知っていること』は、ありがたいことにシリーズ62万部超のベストセラーになっているのですが、読者には「育ちがいい」という言葉をタイトルに使ったことが衝撃だったらしく、さまざまなご意見をいただきました。確かに「育ちのよし悪し」を語ることは、一般的にはタブーとされている風潮もあるのですが、私にとって「育ち」は、日常的に使ってきた表現なんです。
私のスクールに来てくださる方は、老若男女さまざまで、年齢も幅広い。また、お受験講座も開いていますので、小さなお子さんを持つ親御さんも多いのですが、多種多様な講座に参加されるみなさんが、口々にこうおっしゃるんです。「私は育ちがよくない」と。
「親の育ちがいいとは言えないのに、子どもにお受験をさせられるでしょうか」「結婚を前提として付き合いたいけれども、先方の家柄と釣り合わないのでは」など、「育ちがよくない」ことに起因する悩みをさんざん伺ってきて、気になっていました。
ある講座で、40代後半の男性が「自分はお箸も正しく使えず、食事のマナーもわからないし、会話も下手。それはどうしてかというと、両親とあまり会話のない家庭で育ったからで、親を恨んでいます」と言われたんです。
「もういい大人なのですから、子どものころの環境のせい、親のせいになさらないで。 大人になったら、“育ち”は自分で作るもの。今からでも変えられますよ」とお答えしました。
つまり、私にとっては、「育ちがいい」という言葉はポジティブな意味合いなんです。一般的には、親の家柄、幼少期の環境、しつけ、などを想像させると思うのですが、私の解釈では、そうではありません。自分を律して、自分を育て、成長させてきた。そういった方を「育ちがいい」と、とらえています。人が見て心地のよい振る舞いを知っているかどうか、それを実践しているか、それだけの問題です。ですから、「育ちは変えられない、だから、自分は変われない」と言いわけにしている方は、もったいない気がします。「育ち」は、今からでも変えられますよ。
このことを著書の中だけでなく、さまざまな場で発信してきたところ、「とても勇気づけられました。私は小さいころから育ちが悪いと思っていたけれど、それは変えられるのだとわかってうれしくなり、涙が出ました」「コンプレックスを持っていた人生がもったいなかった」などと言ってくださる方も多く、私自身がとても勇気づけられました。
私は「型」からマナーを教えることに重きを置いています。精神論を語ったところで、「相手の心を読んで」とか「マナーは思いやり」「心です」と言われても、それはすでにご存じであり、誰しも当然のこととお考えでしょう。しかし、その思いやりの心をどうやって表すか、その術(すべ)がわからず、多くの方がお困りなのです。武道でも芸術や書道、茶道でも、まずは師匠の模倣をするところから入ります。マナーも同じで、カタチが整っていれば、その方を敬う心が相手に伝わるのです。
今、「婚活講座」はもっとも人気の講座のひとつです。いちばん印象に残っている事例は、これまで70回もお見合いしてもご縁がなかったバツ2の男性が、レッスン後すぐにご結婚されたことです。「明日が71回目のお見合いで、ダメならついに諦めます」と講座を受けにいらっしゃいました。
「YouTubeやオンラインも見たし、本も読んでさんざん勉強しましたがダメでした」と悲壮感を漂わせてらしたので、初めましての挨拶から、次に会う約束を結ぶまでをシミュレーションして、細部までご指導しました。
例えば、「レストランでは、彼女が座ってから座りなさい」「店員から“何になさいますか”と聞かれたときは、彼女が頼んだものをあなたも頼みなさい」とか、「今日は楽しかったです」というのは単なる社交辞令にとらえられかねませんが、「“〇〇さん、今日は本当に楽しかったです”と相手の名前を入れると、親近感を持ってもらえます」などなど……。
ほかにも婚活の場合は、立ち姿勢、ウォーキング、テーブルマナーのほか、聞き上手になるように指導します。ただ聞いているだけではなく、相手のいうことを要約して、「あ、〜ということなんですね」と返してうなずく。そして、しっかりと自分を持って、意見を言う。そのなかで、しなやかで柔らかい言い回しができるよう伝授します。
講座にいらっしゃった方に対して、まずは自信をつけてあげるのが私の仕事です。女性に対しては、メイクから指導を開始します。お顏の左側のみ私が担当し、右側はご自分でやっていただくと、違いがわかりやすい。その方の効き顔を判断し、「右側が可愛い」とか「左側から見たほうがきれい」とか、「そもそも、どちらから見られるのが好きか」「笑顔のときに、こちらのほうが口角が上がる」など、よい点を探しながら直していきます。
市川團十郎さんの言動に魅せられ、マナー講師の仕事にのめり込んだ
私がマナー講師になったのは、丸の内での会社員時代に、式典などで要人をご案内する「VIPアテンダント」という仕事を紹介されたことがきっかけでした。
損害保険会社の海外部に所属しており、部署には海外駐在から帰ってきて洗練された男性が多かったんです。あるとき、ロンドン帰りの部長がランチで老舗のフランス料理店に連れていってくださったのですが、そのエスコートぶりがとってもスマート。レストランのサービスの方が「何になさいますか」と部長に尋ねると、「こちらのご婦人からお願いします」と言われたことが衝撃でした。基本のマナーは知っていたはずですが、緊張感もあって、「部長に恥をかかせたくない。私ももっと、マナーやふるまいをきちんと学びたい」と強く感じたことが、マナー講師の仕事につながっていったのかもしれません。それまで保守的に生きてきたのに、「多分こういう機会は二度とない。やってみたい!」と、反射的にひらめいたんですね。
研修では、立ち居振る舞いやテーブルマナーなどをひと通り学んで、イベントや式典で、皇族の方などVIPのご案内をすることになりました。いちばん印象に残っているのは、歌舞伎役者の十二代目・市川團十郎さんの現場です。一日中お供しましたが、20代半ばの私にも終始、美しい敬語で接してくださいました。スタッフは控室に下がることになっていたランチにも、「あなたも一緒にお食事しましょう」と親切に呼んでくださったことが忘れられず、ますますこの仕事にのめりこんでいきました。
その後、アテンダントを育てる講師側にまわりました。子どものころは人前に出るのが嫌いで、発表したり意見を言ったりするのも大の苦手。それが、今、大勢の前で講義をしているのですから、「苦手だと思っていたことを職業にする人生もありますよ」と、いま悩んでいるお子さんやご両親にもお伝えしたいです。
マナー講師になってからは、新人研修、企業研修なども担当していました。当時、独立する気はまったくありませんでしたが、マナースクールを開校してすぐに新聞社から「男のちょいモテマナー」という連載の依頼があり、続いて、総合情報サイト『All About』のマナーガイドにもスカウトしていただき、マナーや立ち居振る舞い情報を発信し始めました。その後、出版社やテレビからも次々とご依頼いただくようになったんです。
あるテレビ番組で、ほかのマナー講師の方ともご一緒した際、人気MCの方から「マナー講師って、いつもそんなにビシッとしているんですか? 疲れませんか?」と質問されました。その方は「はい、マナー講師は24時間マナー講師ですから!」と立派なお答えをされていました。私はといえば、「いえ、家ではグダグダです」と申し上げましたところ、「安心しました」「そうですよね!」という反応も多くいただき、安心した覚えがあります。家庭や親しいご友人とご一緒のときと、
もちろん、正式の場では守らなければならないプロトコール・マナー(国際的なマナーやエチケット)や日本独特の礼儀作法もありますが、日々の生活においては「マナー以前、マナー未満」の事柄がとても多いんです。そこをどうしていったらいいのか、みなさん、とても悩むんですね。一般的なマナー本を読んでも載っていないような、「マナー以前、マナー未満」
(取材・文/Miki D’Angelo Yamashita)
【PROFILE】
諏内えみ(すない・えみ) ◎「マナースクール ライビウム」「親子・お受験作法教室」代表。“結果を出すスクール”として、洗練された上質マナーや美しい所作、スマートな社交術や会話力を指導しており、メディア出演も多数。映画やドラマでの女優のエレガント所作指導にも定評があるほか、社会貢献活動にも関わり、行政からの信頼も厚い。著書に大ベストセラーとなった『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社刊)や『「ふつうの人」を「品のいい人」に変える 一流の言いかえ』(光文社刊)などがある。最新刊『大人の若見えを叶えるしぐさとふるまい』(大和書房)も話題に。