2023年で俳優デビュー38年目を迎えた斉藤由貴さんが、7月26日から4年ぶりの舞台となる奏劇vol.3『メトロノーム・デュエット』に出演する。ロングインタビュー【後編】では、50代を迎えてからの心境の変化、女優人生の分岐点、女優デビューした長女について、大切にしていることなど、プライベートについても語ってもらった。
『レ・ミゼラブル』のコゼット役が大きな転機に
──現在56歳ですが、50代を迎えてから考え方などで変化したことはありますか?
「それはもう、ものすごく。いちばん大きいのは、未来を見るんじゃなくて、残り時間を数えるようになってきましたね。あとどれぐらい俳優をやっていられるのかなとか。あとどれぐらい生きられるのかなとか。そういうふうな発想に変わってきました」
──それによって、女優としてやってみたい仕事など、変化があったのですか?
「正直に言いますと、テキトーなのは昔から変わらないんですけど(笑)。私は基本的に台本を家に持ち帰らないので、なんとなくこんな感じって、もう何十年もやってきちゃったところがあって。役作りも、私がその場でどう感じたか、どう言いたいか、どう放出したいか。私がそのときどんなふうに真剣に自分のエネルギーを本番にぶつけるかっていうことがすべてでしょ、って思っていて。
すごく傲慢(ごうまん)な言い方ですけど、それに文句は言わせないっていうくらいの気持ちで、やっているところが強いんです。だからある意味、作品に対してわりとケンカ腰というか(笑)。それに拍車がかかった部分はありますね。もう残り少ないし、好きなようにやろうと。現場で、演出部とケンカにならない程度に(笑)」
──(笑)熱くていいですね。これまでのお仕事や人生経験を振り返って、転機や分岐点になったと思う出来事はどんなことでしょうか?
「さすがに38年ぐらいのキャリアがあるので、転機はたくさんあった気がするんですけど。舞台に特化して思い出すと、21歳のときに、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の初演(1987年)でコゼット役をやったことですね。演出家もスタッフも英国のカンパニーの方だったんですけど。同じ役のメインキャストがいて、セカンドがいて、アンダースタディがいて、それで週に公演は何回で、そのうちメインの人が何回やって、セカンドが何回やるとか、厳密なシステムがあるんですね。
それで、Wキャストの人の公演を観たときに、明らかに役柄によって音声の調節があったんです。それに気づいたときに、物語の規模がいろいろあるけれども作品によって、その役柄に求められる範囲があるんだなってことを、すごく思い知らされました。自分が必死になって頑張るとかっていうのを超えたところの、この作品におけるあなたの役割はこれぐらい。このシーンは、あなたはこれ以上のことはやるべきではない。みたいなことが、言われないけど実は厳密に決まりがあって。
で、そのときに、自分のその仕事の中での役割をちゃんと認識することと、そこからはみ出ないことの重要さの客観性みたいなものを、自分ですごく怜悧(れいり)に学習していくことが必要だなって、すごく感じたのを覚えていて」
芸能界入りした長女・水嶋凛には「よかったね」
──21歳ですごく大きな体験をしたんですね。
「はい。その後の役者人生に大きな影響を及ぼしましたね。それはある意味、残酷な学習でもあったし、でもそれが現実でした。具体的なことを言うならば、どんなに必死になってもコゼットという役は、どちらかというと劇評としての評論には結びつかない役なんですよね。人間の機微や人生の悲哀みたいなものを表現する役ではなく、可愛くてきれいでピュアを象徴するようなキャラクターで。
だから3か月の間にすごく葛藤して。でも、そういう自分の役割をカンパニーの一員として担うという客観性というものも必要なんだということをすごく感じて。その中から、俳優っていうのは自分が自分がではなくて、チームの中での自分の存在をちゃんと認識する賢さが絶対必要なんだということは感じましたね」
──それを若いときに学んだことはよかったですか?
「そうですね。なぜなら、そのころの私はすべての仕事で主役しかやっていなかったから。デビューしてからずっと主役というのが当然の日々だったから、変に勘違いした傲慢(ごうまん)さとかをいいタイミングで打ち砕かれたのはあったと思います」
──ひとりの女性としては、結婚して3人のお子様の母親でもありますが、子育てとお仕事の両立で苦労したことはありましたか?
「下ふたりは年子だったので、小さいころは仕事をセーブしていましたけど、実家が近いことが大きかったです。助けが必要なときには、両親が来て子どもたちを預かってくれて。本当に感謝していますね」
──子育てをしたことで、得るものはありましたか?
「う~ん、そういうことを聞かれると、いつも微妙な気持ちになるんですけど、産まない選択をした人、産めなかった人、いろいろな人がいるじゃないですか。だからいつも言うときに言いよどんじゃう部分があるんですけど。
ただ、それを全部取っ払って、本当にただ産んだ人間として言うならば、やっぱり生まれた意味があったなって。それぐらいの経験ではあったなと思います。たぐいまれな素晴らしい経験をしたなって。それは断言できる」
──長女の水嶋凛さんが、2021年に女優デビューされました。女優になりたいと言われたときはどう思いましたか?
「ああ、やりたいんだ。へ~って感じでした。美大でメディア芸術を専攻して映像の分野を学んでいて、そういう系統に進むのかなと思っていたので。それがいざ卒業ってなったら、ちょっとやってみようかなって言いだして、少し驚きましたけど。
でも私は、本人が『これやりたい!』って道を見つけてくれることだけしか希望していないので、やりたいものを見つけたんだったら、よかったねって」
──後輩の女優としては、どのように見ていますか?
「う~ん、舞台(ミュージカル『シンデレラストーリー』に主演)に立つ彼女を見ていて、あんまり客観的に観られませんでしたね。やっぱり、“この子、女優としてああだな、こうだな”っていうことよりも、ただ胸がいっぱいで。ああ~人生って不思議なことがあるな~って。でも今、ケンカ中なんですけどね。全然口を聞かない状態ですけど(笑)」
自分がどうしたいかを聞いてくれるのは、自分だけ
──早く仲直りしてください(笑)。今、日々の生活で大切にしていること、心がけているのはどんなことですか?
「さっきも申し上げた、人生の残り時間が少ないということに関連するんですけど。自分の心がそのとき感じたことを大切にするっていうことでしょうか。休みたいと思ったときはちゃんと休む。食べたいと思ったときに食べる。聴きたいと思ったときに聴きたい音楽を聴く。出かけたいと思ったら出かける。この映画を観たいと思ったら何をおいても観に行く。この人に会いたいと思ったら連絡を取る……。
そうしないとね、忘れちゃうんですよ。いろんなことを(笑)。大事なところでこうしたいと思ったことに、素直になるってことは大事なことなのかなとは、思いますけどね」
──若さと美しさを保つためにしていることがあれば、教えていただけますでしょうか?
「そうですね……、本当に誤解を生みそうなんですけど、あえて言うなら、基本的には勝手に生きている(笑)」
──(笑)ストレスをためないということですか?
「ストレスもいっぱいあるんですけど。自分ではどうしようもないストレスっていうのは、やっぱり降りかかってくる年代なので。悲しいこととか、どうしようかな~ってこととか、親のこととか、いろいろ出てくるじゃないですか。
これぐらいの歳になると、いろいろあるんですけど、望むと望まざるにかかわらずいつかは死んじゃうし、だから勝手に生きるってことですかね(笑)」
──今後、どのように歳を重ねていきたいと思いますか?
「本当に自分がどうしたいのかっていうことを、ちゃんと自分に聞くっていうことですかね。で、そのときの感じた答えをちゃんと実行に移すことだと思います。だってこれからは、年老いて醜くもなるし、身体も動かなくなるし、記憶力も悪くなるし、いろいろなことが出てくる年齢じゃないですか。大切な人を見送ったり、子どもがだんだん自分の人生を歩み出したりとか。
特に今、子離れの最中でもあって、結構悲しかったりする部分もあるので。でも、見送るのも親の仕事だし。そういうときこそ、自分がどうしたいかっていうことをちゃんと聞く。だって自分以外、聞いてくれる人はいないでしょ?」
(取材・文/井ノ口裕子)
《PROFILE》
斉藤由貴(さいとう・ゆき)1966年9月10日生まれ。神奈川県出身。1984年、『少年マガジン』(講談社)第3回ミスマガジンでグランプリ受賞。同年、明星食品「青春という名のラーメン・胸騒ぎチャーシュー」のCMが話題を呼ぶ。‘85年2月、『卒業』で歌手デビュー。4月『スケバン刑事』で連続ドラマ初主演。12月公開の映画『雪の断章-情熱-』で映画初主演し、各映画賞の新人賞を受賞するなど、デビューから破竹の勢いで活躍。’86年、NHK連続テレビ小説『はね駒』のヒロインを演じ、’87年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』で初舞台を踏む。以降女優、歌手として幅広く活躍。近年の主な出演作に、映画『子供はわかってあげない』(’21年)、『最初の晩餐』(’19年)、ドラマ『Dr.チョコレート』(’23年)、『ギバーテイカー』(’23年)、『大奥「3代・徳川家光×万里小路有功 編」』(’23年)、舞台『良い子はみんなご褒美がもらえる』(’19年)、『ショーガール』(’18年)、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』(’16年)などがある。また、20代前半から、詩、小説、エッセイなどの著作も手がけ、書籍も多数出版。作詞家としてミュージカル『ローマの休日』に使用された楽曲の作詞を担当し、1998年度芸術祭賞受賞。他にもミュージカル『シンデレラストーリー』(2003年、2022年上演。作詞担当)、『十二夜』(2003年、2006年上演。作詞担当)などがある。
●公演情報
奏劇 vol.3 『メトロノーム・デュエット』
【原案/作曲】岩代太郎
【脚本・演出】山田能龍
【出演】高橋克実 浜中文一 寺西拓人 富田靖子 斉藤由貴
【演奏】新倉 瞳(チェロ) 桑山哲也(アコーディオン)岩代太郎(ピアノ)
【日程・会場】2023年7月26日(水)~8月2日(水)よみうり大手町ホール(読売新聞社ビル)
【公式ハッシュタグ】#メトロノーム
衣装協力:ワンピース/ロイヤルパーティーレーベル(カフカ Tel.03-6455-7600) ピアス/ウノアエレシルバーコレクション(ウノアエレ Tel.0120-009-488) リング/アビステ (Tel. 03-3401-7124) サンダル/ランバン コレクション(モーダ・クレアTel.︎ 03-3875-7050)