アイドルとファンの関係を時にコミカルに、しかし時に真剣に描いてきた『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(推し武道)。メディアミックスは2020年のアニメ化に続いて昨年のドラマ、そして5月12日から全国で公開の劇場版と続く。
岡山のベーカリーで働く平凡な女性・えりぴよは、七夕まつりの日に偶然、地下アイドルユニット「ChamJam(チャムジャム)」のライブを観たことで人生が激変。メンバーでサーモンピンク担当の内気なアイドル・市井舞菜のファンとして、生活のすべてをアイドルに捧げ、仲間とともに推し活動に邁進する日々が始まった──。
伝説的なファンのえりぴよをドラマと劇場版で演じてきたのは松村沙友理さん。彼女が推している地下アイドル・市井舞菜役には伊礼姫奈さん。ロケを通じて生まれた、本当のアイドルとファンさながらの信頼関係とは?
すでにえりぴよモード!? クランクアップから久々の再会に大興奮
──昨年にドラマ版と劇場版のロケを終えて、おふたりが会われるのは久しぶりだそうですね。
伊礼 ロケではえりぴよのジャージ姿での松村さんばかり見ていたので、おきれいでキラキラの松村さんをいざ目の前にすると緊張しますね。
松村 私も実はすごく緊張してたんですよ! 久しぶりにお会いできて、今日も挨拶のときから変なテンションの声が出ちゃいました。
──おふたりでえりぴよと舞菜を演じてこられて、なんだか今もそのときの親近感というか、姉妹感があるような気もします。今日の松村さんのコーデも舞菜カラーに近いピンク系ですし。
松村 姉妹感は私も思っていたんですけど、自分で言っちゃっていいのかなと……推しは遠くから見つめながら思いをたぎらせるタイプで、カメラが回っていないときでも姫奈ちゃんの舞菜をずっと見ていたんです。
伊礼 松村さんからの視線はだんだん私も感じるようになってました(笑)。内気な舞菜がえりぴよさんに励まされてきたみたいに、松村さんとの距離感も近くなっていきましたね。初めのころはどう反応していいか読めずに、素っ気ないそぶりをしてしまっていたんですが……。
松村 私が一方的に視線を送っていたから、圧の強さにびっくりしちゃっていたのかも。でもだんだん姫奈ちゃんもウィンクなどを送ってくれるようになって、特別な絆が生まれていったような気分すらあります。
推しは「近づきたくても近づけない」(松村沙友理)
──カメラが止まっていてもアイドルとオタクの関係さながらだったようですね。
伊礼 ドラマとはいえ、オタクのみなさんはいい方ばかりなんです。とりわけ松村さんは撮影現場でも、(えりぴよのトレードマークである)ジャージを着ていてもイメージどおりの明るくて人を惹(ひ)きつけるキラキラ感がある松村さんで、お話ししたいなと思いつつも、えりぴよさんと舞菜だしな……と劇中の舞菜さながらに気後れしがちでした。
松村 演者はアイドル側とオタク側に別れていて、私はくまささん(ジャンボたかおさん)や基くん(豊田裕大さん)と一緒にオタクの側だったので、舞菜はもちろんステージ上のChamJamのメンバーをキラキラした目で見ていたかもしれません。カメラのオン・オフ関係なく私の可愛いもの大好きなオタクモードのスイッチが入っちゃって。
──実際のおふたりは、オタクとしてはどんなタイプなんでしょうか?
松村 推しに対しては距離を置きながら仰ぎ見てしまいますね。遠くから見つめる、みたいな。姫奈ちゃんに対してもそうで、近づきたくても近づけず、心の中では“ガチ恋”タイプです。だからChamJamのオタク仲間だと基くんがいちばん近いですね。
伊礼 私は感情がかなり行動に出ますね! ライブにも観客として行くとボロ泣きしてしまったり。オタクとしてはえりぴよさんタイプかもしれません。
松村沙友理と伊礼姫奈が挙げた“憧れの存在“は?
──それにしても、取材中もすごく快活な松村さんですが、乃木坂46時代の明るいキャラクターや、バラエティーで見せる立ち居振る舞いそのままですね。グループ加入当初からそうだったんでしょうか?
松村 えーっと(笑)、意識して振る舞っているわけではないんです。昔から二次元のキャラクターにハマっていて、アニメやゲームに登場するアイドルも好きでした。中でも私が憧れていたのが、どんなときも笑顔で弱みを見せない、全力なキャラの子たちです。だから自然に、画面の中の憧れの彼女たちのようにならなきゃと思って私なりのアイドル像が気づいたらできていて、ここまで10年以上の日々を送ってこれたのかなと思います。
──二次元の推しへの憧れを活動に昇華してこられた、と。
松村 ずっと二次元がエネルギーなので(笑)。アイドルものだと特に『ラブライブ!』シリーズが好きで、例えば暗いネガティブなことを口にしないのも、思えば彼女たちの影響なのかなと。性格的にも“私についてきて!”タイプではないので、乃木坂46のメンバーの中から、私のキャラクターを選んで受け入れてくださったファンのみなさんには感謝しっぱなしです。
──伊礼さんには推しというか、憧れや目標になる人はいますか?
伊礼 実は清原果耶さんです! 私と4歳しか違わないのに、いつも芯を持って役者をやられているところが尊敬できます。でもお仕事でご一緒できたら、松村さんと同じで畏(おそ)れ多くて話しかけるどころではないかもです(笑)。
※インタビュー後編に続きます
(取材・文/大宮高史)
《PROFILE》
松村沙友理(まつむら・さゆり) 1992年8月27日生まれ、大阪府出身。2011年、乃木坂46・1期生オーディションに合格。舞台『じょしらく』(’15年)、映画『賭ケグルイ』(’19年)などに出演。’21年に乃木坂46を卒業後は俳優業を中心に活動し、『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』がグループ卒業後、初主演作品となる。
伊礼姫奈(いれい・ひめな) 2006年2月7日生まれ、群馬県出身。4歳より俳優活動をスタート。NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(’16年)、WOWOWオリジナルドラマ『向こうの果て』(’21年)、NHK『今度生まれたら』(’22年)などに出演。’23年は『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』のほか、主演作『18歳、つむぎます-私の卒業 第4期-』や『ちひろさん』『この小さな手』など出演映画多数。
5月12日(金)新宿バルト9 他全国ロードショー
【出演】松村沙友理 中村里帆 MOMO(@onefive)KANO(@onefive) SOYO(@onefive) GUMI(@onefive) 和田美羽 伊礼姫奈 あかせあかり 末吉9太郎(CUBERS) 岩永ひひお 村田優斗(世界クジラ) 喜多乃愛 速瀬愛 根岸可蓮 山下航平 片田陽依 西山繭子・豊田裕大 ジャンボたかお(レインボー)
【原作】平尾アウリ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(COMICリュウWEB/徳間書店)