2022年10月クールに放送され、大きく話題を呼んだドラマ『silent』(フジテレビ系)。本作でプロデューサーを務めたフジテレビの村瀬健さんにインタビューを敢行。後編では視聴者人気の動向をどう捉えているのか、制作陣の“いま”を語っていただきました。
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各局のドラマ制作におけるトレンドをどう見ている?
──最近の人気傾向を踏まえて、各局どんな趣向をこらしているのか。村瀬さん視点で最近のトレンドをどう見ていますか。
「ドラマは他局も含めて見ています。勉強として見ている部分もありますが、僕自身がドラマファンなので。好きな作品に出合えば全話見ます。いろいろなドラマを見ていると、同業者なので、一定の傾向は感じますね。
よく言われているように、考察ブームは間違いなくありますよね。
“視聴者に考察してもらおう”という意図でストーリーを考え、“裏切ろうとする”とか、“こっちだと思わせといてこっちにする”みたいな、考察をフックにして作っているドラマが多いなとは感じています。
『silent』もすごく考察されましたけど、ブームに乗っかった気持ちはまったくなかったんです。結果的に、あのころ想はこう思ってたんじゃないか、紬はこう思ってたんじゃないかっていう、推察、考察をみんながしてくれましたが、それを狙って作ったつもりは全然ありませんでした」
時代はいま、空前の「考察」ブーム
──SNSでもリアタイ勢の投稿が盛んでした。
「フジテレビは昨年10月から『火曜ACTION!』という深夜ドラマ枠を始めたんです。今年2月からは、若手プロデューサー・ディレクターたちが、“全4話で、月替わりで自分の企画のドラマを作る”という試みを始めているんですが、それを見ていると、やっぱり考察ものが多い。
これはディスりでも、ダメって意味でもなくて、若い子たちに“好きにドラマ作って”というと、“こういう方向になるんだ”っていう、傾向を感じます。
一方で、坂元裕二さん(※1)が、“ていねいに、人の心を描くことで、十分エンタメになる”っていうことを、証明してくださいました。その影響もいまのドラマには多いと思います。
『silent』でも、展開ありきで物語を作るんじゃなくて、その登場人物がどのように考え、どのような感情になるかを考えて、こういう思いだからこういう行動をする、というのを描いていこうと。それだけをやっていこうね、と、脚本家・生方美久さんにも最初から話していました。
“今後のトレンドが『silent』みたいになる”とは、まったく思っていないですが、今後、そういうドラマも出てくるだろうな、とは思います。
自分で言うのも何ですが、『silent』のような作品が、これだけ多くの人に受け入れてもらえたことで、作り手たちが、“安心して、ていねいに作っていいんだ”と思ってくれたと思うんです。
実際に他局のプロデューサーさんやディレクターさんから“勇気をもらった”“ありがとう”と、すごく言われました」
※1:脚本家。手がけた作品に『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)『カルテット』(TBS系)、映画『花束みたいな恋をした』(東京テアトル、リトルモア)などがある。映画『怪物』は、第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で脚本賞を受賞した。
各局制作陣の結束が、テレビドラマをさらに面白くする
──感謝の言葉が! 横のつながりも強いんですね。
「あります。ライバルでもあるし、仲間でもあります。僕はよく他局のプロデューサーとごはんを食べたりしますよ。監督で言うと、塚原あゆ子さん(TBSスパークルエンタテインメント)(※2)と仲いいです。一緒にできたら最高だよね、っていつも話をしていて。塚原・村瀬コンビ見たくないですか?」
※2:プロデューサー、演出家。映画監督も務める。手がけた作品に『最愛』『MIU404』(ともにTBS系)などがある。
──見たいです! どんなものになるんだろう。どの局で放送されますか!?
「あはは、間を取って日テレでやるとかどうですか(笑)? 最近はおかげさまで、こういう年齢になったこともあるんでしょうけど、各局の若いプロデューサーさんで、“村瀬さんに会ってみたい”って言ってくれる人もけっこういて。
それがもう、すっごく楽しいんです。僕が偉そうに説教するとかじゃなくて、むしろ僕がみんなから話を聞かせてもらっています」
──刺激をもらえる。
「刺激をもらうなんて、そんな偉そうなことじゃなくて、単に“みんな、どうやってあんな面白いもの作ってるの?”っていうのを、僕が若い人たちから聞いて、習っています」
──若い方たちの感性に触れて、何か違いは感じましたか?
「ドラマプロデューサーって、結局は個人商店なんですよ。それは、フジテレビに限ったことではないんですけど、例えば、僕のドラマはあくまでも僕のドラマであって、フジテレビのドラマがみんな僕みたいな作り方をしているわけではない。
職種が一緒なだけで、やり方はプロデューサーの数だけ違う。それは若手も同じ。そもそも“若手”ってくくっちゃダメで、局によっても違うし、同じ局でも人によって違う。あくまで個人なんです」
「集大成、まだでした」silentで得たものを次回作につなぐ!
──詳しくは言えないかれもしれませんが、村瀬さんが今後作成してみたいドラマは?
「はい、実はもう次回作の準備を始めています。僕はTwitterをやっているんですけど、先日“企画書がついにできたー!”ってツイートしたら、それを見た上司に“企画書できたんだってな”って(笑)。それこそ今朝ですよ。6時ぐらいまでかかってそれをさらに直して、さっき初めて上司に出したら高評価でした。
時期はまだ言えないですけど、『いつ恋』(『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』フジテレビ系)で得た体感を『silent』に生かしたように、『silent』で感じた自分の体感や経験を生かしたものにしたいと思っています。
『silent』でさんざん“これが集大成です!”って言ってたんですけど、集大成、まだでした(笑)」
──ちなみに、キャスティングは決定しているんですか?
「まさに、いま、出てほしい人たちを口説いているところです。出来あがった企画書を、上司にも見せてないのに、主要キャストの事務所に持っていって、“一緒にやりましょう!!”って言って回って。あとで上司に“すいません、もうキャスティング始めてます”って報告したら、“いいよ〜、面白そうじゃん”って。寛大な上司たちに恵まれて、いい感じに放し飼いにしてもらっています(笑)」
ヒット作はいつだって、制作陣のチームワークで支えられている
──村瀬さんは、脚本家・生方美久さんについても「信頼してる」と話していました。“信頼”は村瀬さんの作品づくりのキーワード。
「僕の持論として、何がいちばん大事って、やっぱり人。結局、どんな作品を作るかよりも、誰とやるか。生方美久さんという、年齢も20才下なんだけど、人間的にも才能的にも素晴らしい人に、デビュー前に出会えた。
坂元裕二さんだってそう。もちろん大天才ですけど、それより何より僕は、人として大好きで、一緒に仕事していないときも、いろいろとお世話になっています(笑)。おかげさまで僕は、本当にたくさんの素晴らしい脚本家さんとご一緒させていだいてきているんですよね。
遊川和彦さん(※3)や井上由美子さん(※4)、岡田惠和さん(※5)といった素晴らしい脚本家さんたちといっぱい(仕事を)やらせていただいて、その方々から学んできたものが、幸せなことに僕のドラマに蓄積していく。
僕はプロデューサーであり脚本家じゃないから、たくさんの脚本家さんと一緒に作品を作ってきた中で、僕なりに得たものがたくさんあるんです。そうしていま、新人脚本家の生方さんとやれている。
もちろん、生方さんから学ぶこともたくさんありますし、楽しくてしょうがないんです。生方さんは、仮に僕が見い出さなかったとしても、いずれ大成功したと思いますが。“僕と出会ったことで、こういう世界が生まれた”というものを、彼女と一緒に作っていけたらなと思ってます。
監督も同じで、『silent』で一緒にやった風間太樹監督(※6)も、人間的にも才能的にも絶大な信頼を置いています。セカンドで撮ってくれた高野舞(高ははしごだか)監督(※7)、サードの品田俊介監督(※8)もそう。
彼らとの信頼関係と、そこから生まれたチームワークは、間違いなく『silent』のクオリティを高められた大きな要因です。彼らとも、もちろんこの先また一緒にやりたいと思っています。
一方で、新しい才能との出会いも、僕は常に求めています。生方さんや風間監督も、そういう気持ちでいたからこそ見つけられたわけですしね。そういう意味でいうと、いろんな作品を見ては”この人と一緒にやりたい!”って思っています。
最近だと、塚原(あゆ子)さんが監督した映画『わたしの幸せな結婚』を見て、改めて“やっぱり塚原さんと一緒にやりたいなぁ”って強く思いました。映画自体おもしろかったんですけど、何より、目黒蓮さんと今田美桜さんが本当にステキで、“さすが塚原監督!”って思いました。
目黒さんはよく知っているのでもともとなんですけど、あの映画を見て、今田美桜さんがめちゃめちゃ好きになりましたもん(笑)」
※3:脚本家。手がけた作品に『となりのチカラ』(テレビ朝日系)『女王の教室』『家政婦のミタ』(日本テレビ系)がある。
※4:脚本家。手がけた作品に『きらきらひかる』『白い巨塔』(ともにフジテレビ系)がある。
※5:脚本家。手がけた作品に、『ちゅらさん』(NHK)『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)現在放送中の『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系)がある。
※6:監督。手がけた作品に『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』(2022)『チア男子!!』(2019)
※7:監督、ドラマディレクター、演出家。手がけた作品に『純愛ディソナンス』、現在放送中の『あなたがしてくれなくても』(ともにフジテレビ系)がある。 ※8:演出家、監督。手がけた作品に『ミステリと言う勿れ』、『ナンバMG5』(ともにフジテレビ系)がある。
テレビドラマが再び熱い時代を迎えている
──すごくワクワクします。
「この年にしてまた楽しくなってきたんですよ。もっともっとドラマを作りたいと思っています。僕だけじゃなくて、いま、テレビドラマ全体がまた面白くなってきていると思うんです。
『silent』が最近のドラマの流れを変えた、みたいな角度で取材していただくことも多いですけど、僕はそんなふうには思っていなくて。あのクールには渡辺あやさん(脚本家)の『エルピス —希望、あるいは災い— 』(カンテレ制作・フジテレビ系)もあったし、三谷幸喜さんのNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も素晴らしかった。
ドラマプロデューサーの大先輩である大多亮さん(※9)がよく言うんですけど、ドラマにいちばん大事なことは多様性。要はいろんなドラマがあることだって。たしかに、連続ドラマのよさって、ワンクールにこんなにいっぱい作品がある、“ドラマ”っていう棚にいろんなジャンルがあって、それを自由に選べる楽しさだと思うんです。
お客さんが自由に選べるんだから、それぞれのプロデューサーが自分の好きなものを作ったら、それだけ色が分かれて、選択肢が増える。そうなったら、お客さんもいろいろ楽しめるから、とってもいいことなんじゃないかって思ってます。
僕はこれまでに、かなりいろんな種類のドラマを作ってきていて、ひと言で言い表しにくいタイプのプロデューサーだと思うんですけど、僕の中では一貫して、自分なりの自分らしさを出してきているつもりではあります。
少しおこがましいですけど、そういう、僕の色というか、“村瀬さんのドラマが好き”って言っていただける人がときどきいて、ありがたい限りなんですけど。そういう方が喜んでくれるものをこれからも作っていきたいし、そう言ってくれる人がもっともっと広がっていくように、もっともっと頑張って、もっともっと面白いドラマを作っていかなきゃと思っています」
※9:元ドラマプロデューサー。現在は、フジテレビジョン専務取締役。
(取材・文/柚月裕実、編集/本間美帆)
【PROFILE】
村瀬健(むらせ・けん) ◎1973年生まれ、愛知県名古屋市出身。フジテレビジョン所属、編成制作局ドラマ・映画制作センター、部長職ゼネラルプロデューサー。早稲田大学社会科学部卒業後、日本テレビに入社。『終戦60年ドラマ・火垂るの墓』『14才の母』などのヒットドラマを手がけたのちに転職。フジテレビ入社後は『太陽と海の教室』をはじめ『BOSS』『信長協奏曲』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』を手がける。映画でも『信長協奏曲』『帝一の國』『とんかつDJアゲ太郎』『約束のネバーランド』『キャラクター』などのヒット作品を送り出す。2022年に手がけたドラマ『silent』が大ヒットを飛ばし、累計見逃し配信数で民放歴代最高記録を樹立。バンド「プランクトン」の音楽プロデューサーとしての顔も持つ。Twitter→@sellarm、Instagram→@kenmurase